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コラム

2023/08/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

「未来塾」で見る日本社会の「未来」

国際学部国際学科 内川明佳 准教授

 

地理的に神奈川県のほぼ中央に位置する綾瀬市は、県内市町村のうち外国人住民の比率が3番目に高い。2023年1月現在、県全体でのこの比率は2.6%のところ、綾瀬市は5.3%となっている。ベトナム人が最多で、スリランカ人、ブラジル人、ラオス人、中国人と続き、特定の国や地域の出身者への偏りがないのも綾瀬市の特徴となっている。
 
そんな綾瀬市には、市民ボランティアが運営し、外国人が日本語を学ぶことのできる教室が7つある。6月下旬、その一つである「日本語クラス・あやせ未来塾」におじゃました。市内の吉岡工業団地にある株式会社栄和産業の2階の食堂を借りて、毎月3回ほど金曜日の夕方に開講されている。そのほかにも、勤務先の都合などにより通常の授業に参加できない生徒のために、自宅等に出向いての出前授業も用意しているという。
 
生徒たちは、クラスを予約する必要はない。その日の都合で自由に参加できる。6月下旬のその日も、近隣の会社・工場での仕事を終えたベトナム人、スリランカ人、カンボジア人、中国人の生徒が、仲間や同僚と一緒に教室に参加していた。
 
それぞれの日本語のレベルに合わせて、生徒一人にボランティアの先生一人がつくマンツーマンの指導が中心となっていて、どのペアからも、真剣で丁寧、そして穏やかな会話が聞こえてくる。金曜日の夕方なのに、生徒も先生もみんな、とても楽しそうだった。1時間半から2時間ほどのクラスを終えると、生徒たちは、「先生、ありがとうございます、次は、2週間後ですね」と、笑顔で帰って行った。
 
2015年の設立当時からこの教室を率いてきた渡邉さんに話をうかがうと、新型コロナ禍から生活が戻りつつあることもあり、また生徒が増えているという。今後、外国人住民が増えていくのは確実で、2070年に日本国内の外国人人口は10%を超えるという試算もある。「あやせ未来塾」がつないでいる「未来」に、日本の社会のあり方もますます問われていくであろうと感じた。
 
未来塾では、12月上旬に餅つき大会が予定されているそうで、東海大学の学生にもぜひ参加してもらいたいと誘っていただいている。関心のある方は、ぜひ国際学部・内川まで連絡を。(筆者は毎号交代します)

内川明佳(うちかわさやか)

1981年カナダ生まれ、神奈川県育ち。コロンビア大学ティーチャーズカレッジ修了、応用人類学博士。

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