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コラム

2021/05/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

深海魚と私

海洋学部海洋生物学科 中山直英 助教


「深海」とは、水深が200メートルより深い海を指し、海の9割以上を占める広大な環境だ。大部分が手つかずであることから「地球最後のフロンティア」と呼ばれ、未知の生物も数多く残されている。水産源としてよく研究されてきた魚類でさえ、深海からの新種報告が後を絶たない。
 
一方、深海魚に見られるユニークな形は古くから多くの人々を魅了してきた。リュウグウノツカイやチョウチンアンコウなど、彼らの奇怪な姿に驚嘆した読者もいるだろう。私はそんな深海魚のとりこになった研究者だ。

信州安曇野で生まれ育った私は、小学生のころから魚に夢中だった。

愛読書は厚みが4センチほどある川魚の図鑑。すり切れるほどページをめくったため、同じものを3度も買い換えた。学校から帰ると、すぐさま近くの川に魚捕りに出かけ、ときには真冬でも平日の早朝から釣りをした。今まで手にしたことがない種類が捕れたときの興奮や達成感がたまらなかった。

大学では魚の勉強がしたい。そう思い立った私は、進学するなら「世界でいちばん面白い魚」を研究しようと考えた。そんなとき、図書館にあった図鑑で目にしたのが深海魚だった。

川魚やスーパーに並んでいる魚しか知らない私の目には、図鑑の中の深海魚が、文字どおり「あり得ない」魚に映った。当時はインターネットもあまり普及しておらず、深海魚に関する情報も限られていたため、その謎めいた存在がますます私の好奇心をかき立てた。

大学の研究室で初めて深海魚の標本に触れたときのことを、今でも鮮明に覚えている。異世界の生物と出会ったような感覚で、珍奇な姿に目が釘づけになった。以来、深海魚に心奪われ、国内外のフィールドや世界各国の博物館で彼らの多様性を探求している。

幸いにも、私はこれまで10種以上の新種を発表する機会に恵まれた。新種に限らず、初めて自分の目で見る種に出会うたびに、小さな達成感が得られる。子どものころに、新しい魚に出会ったときの感覚だ。くせになってやめられない。

(筆者は毎号交代します)

 

なかやま・なおひで 1984年長野県生まれ。高知大学理学部卒業。高知大学大学院総合人間自然科学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。専門は動物分類学・魚類学。

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