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コラム

2023/05/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

ぷらっと優しいつながりを

国際学部国際学科 内川明佳 准教授

 

4月中旬、横浜市緑区の霧が丘商店会にある、「ぷらっとkiricafe(キリカフェ)」にお邪魔した。
 
NPO法人「霧が丘ぷらっとほーむ」が運営するカフェで、食事や喫茶を楽しめるのはもちろん、曜日や時間を区切って、インド人のお母さんと子ども向けの日本語教室や小学生向けの英語教室、地域住民との懇談会などが定期的に開催されている。さらに、ここで出会った人がつながって自然発生的?にイベントも生まれているという。
 
霧が丘は人口約1万1500人のうち、インド国籍の住民が約800人を占める。インターナショナルスクールの開校をきっかけに、「多世代・多文化が混ざり合う街」へと変化しているらしい。
 
今年1月にオープンしたkiricafeのコンセプトは、「誰でもぷらっと立ち寄れるカフェ」。団地が並ぶ建物の1階にあり、道路に面した大きなガラスによって、まるで外につながっているような開放感を感じられる。私が初めて訪れた際には、透明なドアを開けるとすぐにNPOの代表と副代表、ボランティアとしてキッチンに立つインド人ママ、会社を定年退職したばかりというボランティア男性らが笑顔で迎えてくれた。
 
滞在したわずか2時間に、地域のおじいちゃんがぷらっとおうどんを食べに立ち寄り、シニア夫婦はインドカレーとチャイを、散歩中のインド人夫婦は販売されている地元の旬な野菜を手に取っていた。看護師を目指している学生たちもいて、キッチンでお手伝いをしたり、近隣のインド人のお宅を訪問したりと忙しく出たり入ったり。そんなこんなしている間、ベテランの日本語教師も現れて、初対面なのについついおしゃべりが弾んだ。

 

「あぁ、社会はこんな場所を求めている」
 
kiricafeは、少し先の未来の光景なのかもしれない。誰かから与えられるものでも与える場所でもない。組織に入り付随する肩書に縛られることもない。ぷらっと、優しい、困ったときに助け合うのはお互いさま。きっと今の日本社会は、本当は、こんなつながりを求めている。そして、それらを一足先に実現したのが、kiricafeなのだ。見ていてとてもうらやましかった。(筆者は毎号交代します)

内川明佳(うちかわさやか)

1981年カナダ生まれ、神奈川県育ち。コロンビア大学ティーチャーズカレッジ修了、応用人類学博士。

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