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コラム

2023/02/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

骨にまで残る病気

人文学部人文学科 日下宗一郎 講師

 

過去の生活や社会の復元を試みる骨考古学は、古人骨を研究の対象としている。人の一生で避けて通ることができないのが病気である。過去の病気も、骨に記録されていれば研究できるので、この一分野は古病理学と呼ばれる。

 

骨折や利器による外傷も骨病変として残る。縄文時代の古人骨には、外傷があまり観察されないことから、争いの少ない時代だったと考えられている。弥生時代になると外傷が増え、争いが活発になったことが推測されている。

 

また、歯に観察される虫歯は現代人にもなじみ深い疾患である。縄文時代の骨は虫歯率が高かったことから、狩猟採集民であるにもかかわらず植物性の食料をたくさん食べていたことが推定されている。食事は病気と関係していて、昔の人々も病気に悩まされてきたのである。

 

最近、梅毒の感染者が増えているという話を耳にする。現代では、特に若者の感染者が増加傾向にあるそうだ。梅毒は昔に流行した病気だと思っていた。意外に感じる向きも多かろう。梅毒とはどのような病気なのだろうか。

 

梅毒は、ある病原菌に感染すると生じる性感染症である。病気が進むと、皮膚にゴム腫が生じ、最終的には内臓や骨格にまで病変が及ぶ。骨病変がよく観察されるのは頭蓋骨や、下肢の骨である。骨には慢性骨髄炎が生じ、骨の中央部が大きく膨張する。骨表面には特有の凹凸や溶解像が観察されるようになる。 日本に梅毒が入ってきたのは室町時代以降で、江戸時代には都市圏において爆発的に増えたそうである。たとえば江戸時代の京都にある町人層の遺跡からは、梅毒の骨病変が認められる人骨が出土している。約3割に骨病変があり、男性に限れば約5割に梅毒が認められる。いかに多くの人が梅毒を発症していたか想像に難くない。

 

古人骨は、過去の病気や、その起源を教えてくれる。本連載ではこれまで、先史時代のサメ被害や抜歯風習などを紹介してきた。骨考古学の面白さに少しでも触れていただけたなら幸いである。(筆者は毎号交代します)

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