コラム
2023/07/01
先月、初年次教育の講義科目である「入門ゼミナールA」にて「情報収集力」というテーマで授業を行った。著者がこの授業の中で最も強調したのは「根拠の質」に着目してほしいということであった。
インターネットには根拠が不確かな教育に関する言説があふれている。その中でも有名なものの一つとして「ラーニングピラミッド」がある。これは学習方法と学習定着率の関係(たとえば、講義なら5%、他の人に教えるなら90%など)を示した図なのだが、残念ながらこの数字に根拠はない。このことは広く知られているものの、いまだにこの図を紹介している人が後を絶たないため、ラーニングピラミッドは「ゾンビ」とさえ言われている。
実際、インターネットで「ラーニングピラミッド」と検索してみると、ラーニングピラミッドについて懇切丁寧に「解説」している記事が散見される。
残念ながらゾンビはまだ湧いているようである。
ただ、幸いなことに検索結果の上から三番目のリンクは「ラーニングピラミッドの誤謬」というタイトルの論文であるため、この論文によってゾンビの発生が食い止められている可能性はあるかもしれない。
さて、このラーニングピラミッドの魅力をひもとくことで我々が得るべき教訓を導いてみたい。ラーニングピラミッドの魅力はなんといってもその視覚的な「分かりやすさ」である。
ピラミッド型の図は実に「分かりやすい」。しかも、我々の直感となんとなく合っているような気もしてしまう(実際には確証バイアスが働いている)。こうした訴求力の高い図は我々を「分かったつもり」にさせてしまう。このような分析から我々が得るべき教訓は「分かりやすい図には注意すべし」ということである。
分かりやすいものには裏がある。もし、分かりやすいものに出くわしたのなら「これはどういう意味だろうか」「なぜこのように示しているのか」といった批判的思考のスイッチを入れるようにする。こうした教訓を心のどこかにしまっておくことが情報収集の助けになると考えている。(筆者は毎号交代します)
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