コラム
2022/06/014月の初め、外でのんきに学生と談笑していたら、満面の笑みで学科長が近づいてきてこの連載を担当してほしいと話があった。学生時代の思い出や研究、感じていることなどを自由に書いていいということだ。学科長はたいへんな人格者なので断ることはできない。「気楽に書いていい」と入試広報にも本紙編集長にも念を押されたので、勇気を出して気楽に書こうと思う。
東海大学に来て3年目。今年スタートした文理融合学部地域社会学科に所属しながら学内の学生相談室の運営にも携わらせてもらっている。私の研究生活のスタートは人生の半ばを過ぎてからで、これまでのキャリアの大半を臨床心理士として福祉、学校領域で働いてきた。とはいっても、学部時代は心理学とは別分野の学科で学んでおり、大学3年生のときに迷いに迷って心理学を志し、別分野から心理学の大学院を受験した。研究のスタートも遅い、そもそも専門分野に進んだのも遅い。
そんな私が最初に就職したのは、虐待を受けたり、家庭の課題を背負わされてしまったりと生きづらい状況にある子どもたちと一緒に暮らす施設だった。宿直勤務もあり寝食をともにした。多くの子どもが深いトラウマを抱えており、大学院で学んだ臨床心理学の理論では彼らと向き合うことができず途方に暮れた。
心理療法も、カウンセリングも、心理テストも習ったが、トラウマに苦しむ子どもをどうやって寝かしつけるか、起床の声をどうかけるか、入浴中に泣き出したらどうしたらいいか、感情が高ぶり暴力的になる子どもをどう落ち着かせるか、子どもたちの成長に力を貸すにはどうしたらよいか、何もわからなかった。
虐待を受けた子どもは大人からの愛情に暴力はつきものであると勘違いしてしまい、わざと怒られるようなことをしたり、注意を引こうとしたりする。「私はあなたを殴らないよ」とはっきりと言葉にしたほうがいいと教えてくれたのは、あまり年の変わらない保育士さんだった。面談室を飛び出して生活にかかわりながら治療的であるにはどうしたらよいのか、模索しながらの日々であった。この場をお借りして本連載ではこれまでの臨床の場で感じてきたことを述べていきたいと思う。
(筆者は毎号交代します)
2024/10/01
サックスという趣味を続ける③
2024/09/01
学歴社会から専門性を重視する社会へ
2024/08/01
スモール・イズ・バルネラブル
2024/07/01
サックスという趣味を続ける②
2024/06/01
外国法を真に学ぶ方法と必要性
2024/05/01
スモール・イズ・ビューティーフル
2024/04/01
サックスという趣味を続ける①
2024/03/01
人生は長い旅路
2024/02/01
“違和感”が教えてくれたこと
2024/01/01
理科で学ぶ「条件制御」を日常に
2023/12/01
趣味のすゝめ
2023/11/01
海を渡ってブリコラージュ
2023/10/01
「推し本」を語り合うこと
2023/09/01
君たちはどう逃げるか
2023/08/01
「未来塾」で見る日本社会の「未来」
2023/07/01
「分かりやすさ」にご注意
2023/06/01
衣付けの楽しみ
2023/05/01
ぷらっと優しいつながりを
2023/04/01
AIが変える検索と教育の未来
2023/03/01
カウンセリングとアドボカシー
2023/02/01
骨にまで残る病気
2023/01/01
まず隗より始めよ②
2022/12/01
カウンセラーもがまださんと!
2022/11/01
骨に記録された食事
2022/10/01
まず隗より始めよ①
2022/09/01
面接室の外の心理療法
2022/08/01
歯の抜き方も好き好き?
2022/07/01
活用なき学問は無学に等し
2022/05/01
サメに食べられたヒト
2022/04/01
挑戦できない社会人を大量生産しないために
2022/03/01
コロナ禍で進むICT利活用、今後は?
2022/02/01
真夜中の争奪戦
2022/01/01
黒い雪
2021/12/01
思考の整理に便利なツール
2021/11/01
3年半を振り返って
2021/10/01
月明かりが生む闇のかたち
2021/09/01
アフターコロナの学びを考える
2021/08/01
分類学と博物館を巡る旅
2021/07/01
喘息と獣
2021/06/01
学ぼうと思ったきっかけ
2021/05/01
深海魚と私
2021/04/01
作品をみることは、自分自身をみること
2021/03/01
お題〈番外編〉 卒業を振り返る
2021/02/01
趣味を通して世界を広げる
2021/01/01
〈自分の意見〉を伝えること
2020/12/01
お題③ざんねんないきもの
2020/11/01
動物愛護とアニマルウェルフェア
2020/10/01
〈別れ〉と向き合う
2020/09/01
お題② 平均
2020/08/01
家族や友人との食事こそ