share

コラム

2022/04/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

挑戦できない社会人を大量生産しないために

経営学部経営学科 アルマズヤッド オスマン 講師

 

最近、文部科学省が推進している「アクティブラーニング」(AL)という言葉をよく耳にする。簡単に言えば、教員による一方的な授業ではなく、学習者の能動的な参加を積極的に取り入れる教授法のことだ。これは一定の条件のもとで用いれば、ある程度の効果があるかもしれないが、21世紀の歯車を19世紀の教育システムに組み込ませても効果はきわめて低い。

 

ALは「主体的に判断する力」「対話的な学び」「クリティカル・シンキング」など、多くの出来事を経験する力が重視されている。教員の立場からもよく「自分で考えること」や「失敗を恐れないこと」の重要性を説くものの、実際に学習者にとっての「挑戦の場」である試験やリポートでは、模範的な回答から外れるほど減点され、周りからさげすみの目で見られるという絶望的な結果が待っている。

 

逆に言えば、模範的な回答ができる学生ほど高く評価され、みんなから一目置かれる。また、チームワークはきわめて重要であると教えるが、評価できるシステム体制は個人にしか対応できない。場数を踏むこと、段取りの大切さ、長期的なスパンで努力し成果を残す重要性を教えるが、あっと言う間に終わる学期ごとに学生を評価せざるを得ない壁にぶつかる。その結果、教員による素晴らしい「精神論」も絵に描いた餅でしかない。

 

学生が社会人になれば、「唯一無二の答えはない」という状況に置かれる場面に直面するにもかかわらず、初等教育から高等教育まで「失敗を恐れずに挑戦できる」訓練を受ける環境や機会はきわめて稀だ。このままでは「失敗を恐れて挑戦できない社会人」を大量生産する恐れがある。

 

この矛盾を乗り越えて学生が安心できる「失敗が評価される教育システム」を開発しないことには、この相いれない関係による悪循環のループが永遠に続くだろう。その際には、「システム思考」を視野に入れるべきだ。部分的に焦点を当て本質を考えるのではなく、全体を見極めて俯瞰的に考え、パターンを引き起こしている構造を根本的に把握することが最初の一歩となる。

 

文科省とは言わないまでも、教育機関(運営側と教員側)、そして、実社会で多様な主体と連携しつつ、21世紀にふさわしい「教育システム」の開発が急務だ。

 

(筆者は毎号交代します)

アルマズヤッド オスマン

1986年サウジアラビア王国リヤド生まれ。東海大学政治経済学部経営学科卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。専門は経営学。

Point of View記事一覧

2024/04/01

サックスという趣味を続ける①

2024/03/01

人生は長い旅路

2024/02/01

“違和感”が教えてくれたこと

2024/01/01

理科で学ぶ「条件制御」を日常に

2023/12/01

趣味のすゝめ

2023/11/01

海を渡ってブリコラージュ

2023/10/01

「推し本」を語り合うこと

2023/09/01

君たちはどう逃げるか

2023/08/01

「未来塾」で見る日本社会の「未来」

2023/07/01

「分かりやすさ」にご注意

2023/06/01

衣付けの楽しみ

2023/05/01

ぷらっと優しいつながりを

2023/04/01

AIが変える検索と教育の未来

2023/03/01

カウンセリングとアドボカシー

2023/02/01

骨にまで残る病気

2023/01/01

まず隗より始めよ②

2022/12/01

カウンセラーもがまださんと!

2022/11/01

骨に記録された食事

2022/10/01

まず隗より始めよ①

2022/09/01

面接室の外の心理療法

2022/08/01

歯の抜き方も好き好き?

2022/07/01

活用なき学問は無学に等し

2022/06/01

模索の日々

2022/05/01

サメに食べられたヒト

2022/03/01

コロナ禍で進むICT利活用、今後は?

2022/02/01

真夜中の争奪戦

2022/01/01

黒い雪

2021/12/01

思考の整理に便利なツール

2021/11/01

3年半を振り返って

2021/10/01

月明かりが生む闇のかたち

2021/09/01

アフターコロナの学びを考える

2021/08/01

分類学と博物館を巡る旅

2021/07/01

喘息と獣

2021/06/01

学ぼうと思ったきっかけ

2021/05/01

深海魚と私

2021/04/01

作品をみることは、自分自身をみること

2021/03/01

お題〈番外編〉 卒業を振り返る

2021/02/01

趣味を通して世界を広げる

2021/01/01

〈自分の意見〉を伝えること

2020/12/01

お題③ざんねんないきもの

2020/11/01

動物愛護とアニマルウェルフェア

2020/10/01

〈別れ〉と向き合う

2020/09/01

お題② 平均

2020/08/01

家族や友人との食事こそ

2020/07/01

〈二人の時間〉の過ごし方

2020/06/01

お題①辛口コメント

2020/05/01

笑う動物

2020/04/01

「出会い」がもたらすもの

2020/03/01

インテグリティ

2020/02/01

Universityの楽しみ方