コラム
2023/03/01
前回の連載では、熊本校舎の学生相談室を紹介しつつ、面接室の中で行われるカウンセリングを主としてきた臨床心理士の役割を拡大することの必要性について述べた。
伝統的なカウンセリングにおいては心の内界を扱うことが重要であるとされ、個人の感情や認知に焦点を当て、社会環境からの影響をいったん脇に置く考えが強かった。表出している課題が貧困、ハラスメント、マイノリティであることといった社会的・文化的に抑圧された立場から生じていたとしても、カウンセリングでは個人の内面の問題として扱われてしまうのだ。
そうなると、結果として現状のアンフェアな社会システムを放置もしくは強化してしまうことになりかねない。例えば、職場でハラスメントを受けてストレスを抱えた人のカウンセリングにおいて、その人の感じ方やストレスへの対処法だけに焦点を当てると、その状況は改善されず不利な環境への適応を暗に促すことになりかねない。
環境への働きかけをしようとするカウンセリングの流れはあるものの、伝統的な学派の影響なのか心を扱う専門家が内向きである傾向は否めない。このような時に用いられるのがアドボカシーの視点である。アドボカシーは医療、福祉、法律などの分野で用いられ、「権利擁護・代弁」と訳されることが多いが、カウンセリングではまだまだなじみが薄い言葉である。
現在取り組んでいる研究は、最前線のカウンセリングの現場でアドボカシーの視点がどのように取り入れられているのか明らかにすることである。特に環境からの影響が大きく、調整を必要とする学校現場で活躍しているカウンセリングの専門家にインタビューさせてもらっている。アドボカシーの視点をカウンセリングに生かすと、傾聴するだけでなく、環境にも積極的に働きかけ、子どもをエンパワメント(勇気づけ)しつつ、時には本人に代わって声を上げることで権利を擁護する姿勢が明確になる。
小さく、社会に届かない切実な声に耳を傾ける時、背景にある課題にアプローチする社会的責任に、カウンセリングはどう向き合っていくのか考えていきたいと思っている。(筆者は毎号交代します)
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