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コラム

2021/08/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

分類学と博物館を巡る旅

海洋学部海洋生物学科 中山直英 助教


私は「分類学」と呼ばれる生物学の一分野を専門としている。分類学とは、多種多様な生物を分類し(見分け)、記載・命名し(特徴を記述して名前をつけ)、分類体系の中に位置づけていく(整理する)学問だ。地球上に生物が何種いるのか、それぞれの種がどんな特徴を持ち、どこに分布しているのか、彼らの類縁関係(進化の系譜)がどうなっているのか、などが中心的な問いになっている。

生物の種類は膨大であるため(推定で870万種以上)、個々の分類学者は特定のグループに対象を絞って研究している。私の場合は魚類で、特に「ソコダラ」と呼ばれる深海性のタラの仲間を専門とする。ソコダラは深海底を代表する魚類で、深海生態系の中で重要な位置を占めている。しかし、近年でも新種発見が後を絶たず、種の多様性が十分解明されていない。

私の研究目標の一つは、ソコダラの仲間が世界に何種いるのか明らかにすることだ。このゴールに向け、国内外での調査航海に参加したり、魚市場を訪問したりして、どこにどんなソコダラがいるのか地道に調べている。しかし、海外での野外調査には困難がつきまとい、実施できる機会も非常に限られている。

こんなとき、頼りになるのが「博物館」に保管されている「標本」だ。これら二つは「図書館」と「図書資料」の関係に似ている。皆さんも、何かわからないことがあったとき、図書館に行って本などを調べたことがあると思う。分類学者は生物についてわからないことがあるとき、博物館を訪ねて標本を観察する。

これまでに12カ国22の博物館施設を訪問し、所蔵されている標本を調査した。世界の博物館には、その土地で採集された標本を中心に、膨大な数の標本が研究用に維持管理されている。現地を訪問して標本を直接観察することで、海外産の種の特徴を自分の目で確かめることができる。また、このような標本調査を通じ、新種の可能性のある標本が見つかることも多い。

コロナ禍により、2020年以降に予定していたヨーロッパやアジアでの標本調査はすべてキャンセルとなった。未曽有のパンデミックが一日も早く収束することを願ってやまない。近い将来、国外の博物館を巡る旅を再開し、ソコダラの多様性の全貌を世界規模で明らかにしたい。

(筆者は毎号交代します)

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