コラム
2025/07/01
大学生のほとんどがSNSアカウントを持ち、一日のうちかなりの時間をタイムラインの「閲覧」に費やしている。だが「発信」となると、大人が抱くイメージほど器用ではない。
広報メディア学科の講義「ソーシャルメディア論」では、学生がInstagramのアカウントを開設し、広報メディア学科の広報を実践している。「勝利の方程式」を探るべく仮説を立てて投稿を重ねているわけだ。
しかし、数字は思うように伸びず、試行錯誤が続く。学生たちが自撮りやランチを気軽に投稿する行為と、組織やサービスを魅力的に伝える広報活動とでは土俵がまるで違うからだ。
野口研究室のInstagramアカウントも同様だ。研究室のリール動画は平均で約5000回再生。そんな中、「ゼミ生に半ば抜き打ちでSPIを解かせた結果、結局は教員の私が1位」という1本だけが80万回を叩き出した。これは、「#東海大学」のリール動画ではトップレベルの再生数だ。
それに気をよくして、「業界分析に挑戦するゼミ生」の動画を同じ構図で投稿したところ、結果は元の5000回。「ゼミ×就活」こそ勝利の方程式と読んだ仮説はあえなく崩れた。再生回数は「評価」ではなく「反応」であり、数字が示すのは価値ではなく接点の広さにすぎない。
方程式は試行錯誤の積み重ねからしか現れない。「バズ」の後追いをしても、アルゴリズムと受け手の気分で風向きは一瞬で変わる。だからこそ学生には、数値に一喜一憂する前に「なぜ再生回数が伸びたか」「なぜ届かなかったか」を言語化し、次の仮説へ練り直す習慣を求めたい。数字の裏には社会状況や感情の流れが必ず潜む。それを読み解く必要がある。
広報の現場は、宝探しのような「運」と実験ノートのような「再現性」の綱引きである。偶然バズった投稿を解剖し、再び同じ成果を生み出せた瞬間、プロへの階段を一段上がったことになる。しかし、数字だけを追いかけて心の温度を失えば、画面の向こうの人には届かない。失敗をネタに笑い合い、スマホ片手にアイデアをぶつけ合う時間こそ、最高の実習である。アルゴリズムが日々姿を変えても思考をアップデートし、小さな気づきをノートに書き留め続けよう。そのノートが後輩へと渡ったとき、君たちの試行錯誤はテクニックを超え、学科のカルチャーになる。
(筆者は毎号交代します)
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