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コラム

2020/07/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

〈二人の時間〉の過ごし方

医学部看護学科 森屋宏美 講師

みんなでワイワイするのも楽しいが、どちらかというと私は「二人の時間」が好きだ。親しい友人や家族など、気の置けない人とくつろぐ時間はもちろん、たまたま同じ場に居合わせた人と話をする中で、その人の興味深い一面を発見する時間もなかなかだ。

ドイツの哲学者のM・ブーバーは、自己と他者の本来的なあり方とは、「あなたあっての私、私あってのあなた、互いにそう言える間柄のこと」と説いた。誰もが、誰からの影響も受けずに自己を形づくるわけではない。二人の時間は、相手と向き合い、他者を鏡として自己をみる機会となる。まして真に向き合っている場合には、自然なかかわりの中で、互いに影響を及ぼしながら成長していく。

普段、私は大学で、研究事務スタッフの佐藤さん(仮名)と二人で過ごしている。聞けば佐藤さんは私と同じ年齢で住まいも近く、互いの子どもは同じ学校で顔見知りらしい。そんな彼女と私は、仕事をするうえでほとんど会話らしい会話をしない。仕事を依頼するときは私がデスクにメモを残し、仕上がると彼女からメモを受け取る。

ある日、私の研究成果が新聞に掲載された。記事には、センスよく撮られた開発媒体の写真も載っている。撮影してくれたのは、もちろん佐藤さんだ。

新聞が届いた日、私はその朝刊を出勤したばかりの佐藤さんに手渡し、いつものとおり駆け足で研究室を出た。夕方、メールをチェックすると、珍しく彼女から送信があった。「自分が撮った写真を全国の人に見てもらえるなんて夢のようです。こんなのんきな私に素晴らしい経験をさせてくださって、本当にありがとうございます。(と、私が新聞を見て呟いたら、すでに森屋さんはいなかったという……。お疲れさまです)」

読んで私は焦った。文面は感謝であふれているが、その奥に、私との関係に対する寂しさを感じたからだ。

二人の時間を過ごす中で、決してやってはいけないことがある。それは、相手を自分の目的達成のためだけに巻き込むことだ。どんなに親しい人でも、あなたに関係するすべての人は、あなたから自由な存在なのである。その後、私が佐藤さんに、〈あなたあっての私〉の気持ちを伝え、関係の軌道修正を図ったことは、言うまでもない。

(筆者は毎号交代します)

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