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コラム

2021/01/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

〈自分の意見〉を伝えること

医学部看護学科 森屋宏美 講師

大学にいると、成人式を終えたばかりの学生から祝いの言葉を求められることがある。このようなとき、決まって私は「自分の意見をしっかりと伝えられる人になれ」とエールを送る。

私にとって〈自分の意見〉とは、ある事態に直面したときに状況を正しく理解し、考えを深め、自分なりに導き出した答えである。〈自分の意見〉を最良なタイミングで適切に表現することは、成人らしさのひとつと言えるのではないだろうか。

私は、小学生のころから毎年、年賀状を書いていた。しかし最近になって、この習慣をやめた。正確には、最後の年賀状に〈自分の意見〉を書いて送った。「本年をもちまして皆様への年賀状でのごあいさつを失礼することにしました」

人生を折り返す年齢となり、あらためて日常的に交流をもつ人々との関係を大切にする誓いの意味があった。

すると翌年、木村さん(仮名、同年代の女性)から、相変わらず年賀状が届いた。そこには、「たいしたことではないけれど、宏美さんから意見をもらいたいことがある」と書かれていた。

雑誌編集者である彼女と私の出会いは20年前。当時、職場に隣接した礼拝堂でレクイエムの奉唱会が開かれ、近くにいた彼女の歌声をほめたことがきっかけだ。

長きにわたり年賀状以上の付き合いをしていなかったので、とても驚いた。さっそくSNSで新年のあいさつをしたところ、「小児科病棟でのシネマ上映を企画したい。医療者から歓迎されると思うか?」と本題がきた。

朝7時、文字にすると数行のやりとりから、新たな関係が始まった。この20年で私の知らない世界をたくさん見てきた彼女との会話はとても刺激的で、喜びと同時に、長く止まっていた二人の時が惜しくも感じられた。

社会の中で、いつも〈自分の意見〉が受け入れられるとは限らない。人は、身体的にも精神的にも社会的にも多様な存在であるから、意見にも多様性があって当然だ。だから、これからの時代に挑む学生には、さまざまな意見を出し合い、私だけの答えでもあなただけの答えでもない、第三の答えを導き出す力をつけてほしい。多彩な人が集う総合大学は、これをかなえる最適な場となる。

(筆者は毎号交代します)

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