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コラム

2020/11/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

動物愛護とアニマルウェルフェア

農学部応用動物科学科 伊藤秀一 教授

“動物愛護”は日常でも耳にする身近な言葉ですが、「その意味は?」と問われると「動物を愛し護る? ……のか?」と、回答に困る方も多いのではないでしょうか。英語でも、動物を護るという意味でのAnimal protectionという言葉はありますが、いわゆる日本の動物愛護とはニュアンスが違うようです。動物を取り扱う専門家の中では、日本の動物愛護を説明する場合は、Animal protection ではなく「AIGO」を使います。

英国最大の”動物愛護団体”であるRSPCA(The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)も、その名称を見てわかるように、動物を愛することを目的としているのではなく、虐待を防止することを目的としている団体です(つまり“動物愛護団体”ではない)。海外で動物の毛皮利用などに反対する人々の行動が報道されることがありますが、これも動物への愛護精神ではなく、動物の代弁をしているというイメージのようです。

アニマルウェルフェアという言葉は、最終的に食べてしまう(殺してしまう)動物に対しても、生きている間のストレスや幸福に配慮する思想で、科学的に動物の状態を定量化して飼育環境を考えます。オリンピックの「持続可能性に配慮した調達コード」にも記載されていたことから、日本でも少しずつこの言葉を聞くようになりました。

「AIGO」もしくは 「動物愛護」は「動物を愛する人の気持ち」であって、実際の動物の状態の評価は必要ではなく、終生飼養・殺生禁止がその内容であると解説されます。最後は殺して食べてしまう畜産動物には当てはめることができません。そのため日本で畜産動物への配慮を考える場合は、「感謝することが重要だ」という”議論のすり替え”を聞くことがあります。「日本には”いただきます”という言葉があり、動物たちの命への感謝でもある」と(実はこの考えは最近つけられた解釈で実際には違うと言われています)。

EUを中心に法制化が進んでいる「動物の飼育基準」(最低限の密度や管理方法など)を日本でも考える時が来ていると感じます。動物との関係に関しては “よい”言葉を発するだけで満足してしまわずに、動物の環境を考慮したうえで、今後の関係を考えていくべき時代が来ています。

(筆者は毎号交代します)

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