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コラム

2019/07/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

コミュ力って?

現代教養センター 二ノ宮リム さち 准教授

「自分はコミュ力がなくて……」こんな学生のつぶやきによく出会う。世間では日々コミュニケーション力の大切さが叫ばれ、一方で若者のコミュニケーション力低下が嘆かれる。そんな中で学生たちはコミュ力向上に必死だ。
 
本当に若者のコミュ力は低下したのか。それは少し違うように思う。今どきのコミュニケーションは昔より格段に多様になり、その分、求められるコミュ力も複雑化している。実は今どきの若者はこうした変化のただ中で、これまでの大人も身につけたことがない新たなコミュ力の創造を担いつつあるのではないか。
 
コミュニケーションにおける一つの大きな変化はSNSの登場だ。多人数間のやりとりだったり、面と向かっては言えないことが書けたり。新たなコミュニケーションが繰り広げられ、時に新たなトラブルも起きる。若者たちはそれらに対応しながら新たなコミュ力を日々創造している。
 
もう一つの大きな変化は、人々の生きる状況や価値観の多様化だろう。国の経済成長に向けて皆で突き進む時代はとうに終わった。村全体でともに農作業にいそしみ暮らしを支え合う時代は遠い昔話だ。いま人々は、どんな社会を目指すか、数ある問題をどう解決するか、対話を重ねて異なる価値観を擦り合わせ、変化を生み出していかねばならない。大衆の要求をくみ取って社会を動かすリーダーに任せればよいという時代には必要なかった「対話」のコミュ力が、求められている。
 
演劇人の平田オリザ氏はかつて、日本語は対等な関係を前提にした対話の言葉に乏しいが、若者によって上下関係を伴わない褒め言葉「かわいい」が生み出されたと指摘した。今の若者は「やばい」を手に、さらなる可能性を切り拓いているのかもしれない。
 
異なる価値観、対立する意見に出くわしたとき、これまで多くの大人が対話を避けてきた。抑えつけたり、気づかなかったことにしたりした。対話がない社会は政治的、経済的に強い者の価値観に基づいて動く。強者の側にない多様な声がないものにされれば、社会は分断され無気力化し、人々の生きにくさは増す。
 
いま本当に必要な「コミュ力」は、新たな時代の「対話」の力。それは今どきの若者によって創造されるのか。大学は、間違ってもそれを潰さず、支えられる場でありたい。

(筆者は毎号交代します)

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