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コラム

2019/04/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

アオテアロアで考えた多様

現代教養センター 二ノ宮リム さち 准教授

先日、ニュージーランド(先住民族マオリの言葉でアオテアロア)を訪れた。見渡す限りの草原、雪をかぶった山々、合間に輝く湖。心洗われる旅の終盤、スマホに日本の友人から「クライストチャーチで銃撃」の速報が届いた。数日前に歩いた穏やかな街を思いながら乗ったバスでは、運転手の「ニュース見たか? クライストチャーチの銃撃で9人死んだ」という声に驚きと不安が広がる(1週間後の報道では死者50人となった)。
 
宿のテレビにアーダーン首相が映った。「ニュージーランドが標的にされたのは……多様性、親切さ、思いやり、こうした価値観を共有する人々のふるさとであり、それを必要とする人々の避難場所であるからです。この価値観は攻撃によって揺らぐことはない、揺らがせることはできないと断言します」。多様性を尊び移民を多く受け入れてきたこの国で、その移民らに暴力が向けられたことに怒る、明確なメッセージだった。
 
翻って日本の状況を考える。銃撃は起きていなくても、特定の民族や国籍を標的としたヘイトスピーチや差別は絶えない。移民受け入れを否定する政府のもとで、現実には在留外国人が過去最多の260万人超まで増え、生まれる子どもの50人に1人は両親の一方が外国籍だ。外国にルーツを持つ人々も含め対等な関係を結び、多様性、親切さ、思いやりの価値を共有し、お互いを認め合う社会を構築していくことが喫緊の課題だ。
 
ニュージーランドが多様性を尊ぶ背景には、マオリから土地を奪った歴史への反省がある。少数派マオリの権利向上が重視され、マオリ語は公用語の一つに位置づけられている。それに加え、世界で初めて手話を公用語に定めた。女性の参政権を認めたのも世界初。女性首相のアーダーン氏は世界で初めて在任中に産休を取り話題になった。
 
社会には宗教、出自、障がい、経済状況、セクシャリティなどさまざまな差別があり、誰もが差別される可能性がある。ニュージーランドと日本の歴史や文化は異なるが、差別の受容が誰にとっても窮屈で不安で生きにくい社会に、逆に多様性を大切にすることが誰にとっても生きやすい社会につながるのは同じだ。日本が学ぶべきことは多い。

 

にのみやりむ・さち 博士(農学)。専門は環境教育、ESD(持続可能な開発のための教育)、社会教育。

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