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コラム

2015/12/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

Japaneseであること

工学部土木工学科 寺田一美 講師

春に育児休暇より復帰してから、通勤にロマンスカーを使うことが増えた。時間稼ぎが一番の理由だが、一つの憩いの場として楽しみにしている。車窓を眺めていると沿線の緑が赤く色付き、季節を感じさせてくれる。湘南校舎もそうだ。天気の良い日に北門から歩いていくと、ふと目を挙げた瞬間美しい紅葉に心奪われることがある。四季のある日本に生まれてよかった!と思う瞬間だ。

日本の素晴らしさは季節だけではない。初めて妊娠がわかった時、「早く安定期に入ってくれ!」と、お腹の赤ちゃんの心配をしていた。安定期に入ると「無事に産まれてくれ!」、産後は「元気に育ってくれ!」とやはり心配ばかりだ。親とはそんなものなのかと思いつつ、だがしかし、そもそも日本人として生を受けた時点で恵まれていないだろうか。

国際協力NGOジョイセフによると、今でも世界中で約29万人の女性が妊娠や出産で命を落としており、その99%は途上国の女性たちだ。近くに病院がなく医師の数が不足しているため、灯りのない非衛生的な環境下でやむなく出産する女性が少なくない。妊娠・出産中に異常が起きても察知することもできず、できても病院まで行くこともできず、日本であればたくさんの助かるはずの女性が命を落としているという。

私はほぼ毎月妊婦検診を受け、設備の整った病院で出産し、育児も保育園を始めとし自治体や地域の助けを借りて行っている。もしもの時には救急車も呼べ、深夜でも灯りのついた安全な道路を走り、衛生的な病院で治療を受けることが出来るだろう。

我々は蛇口をひねれば清浄な水が手に入り、ゴミや汚水は自治体により回収・処理され、非衛生的な環境が媒介するチフスやコレラに脅かされることはない。洪水対策で護岸整備された河川の上を、安全な橋梁を使って渡ることが出来る。これらいわゆる「インフラ」は我らが土木技術の結晶!であるが、それらは今、日本人として生まれた時点で当たり前に享受出来るのだ。

世界の人口約73億人のうち、1.7%に過ぎない日本人。この世に人として生を受け、日本人として生きることの出来る確率は一体どれほどだろう。Japaneseとして生まれ、育った我々が、今考え、なすべきことは何だろうか。(筆者は毎号交代します)

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