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コラム

2015/02/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

女性たちは地域を変えることができる

海洋学部海洋文明学科 関いずみ 准教授

そもそもの始まりは、漁師の背中だった。海、という未知なる世界にこぎ出し、獲物を捕らえて暮らしを立てる。そんな生き方にほれてしまったのだ。そうして漁業・漁村
にかかわる仕事に飛び込んだのは、20代最後の冬だった。

根室の漁港で突然の吹雪に遭難しかけ、命からがら遠洋船の船員宿に飛び込んだり、気仙沼の港祭りで夜通し踊りまくったり、南伊豆で漁師と酒の飲み比べをしたり、福岡県の離島でワカメの加工作業に従事したり。これまであちらこちらの漁村を回り、たくさんの人と出会い、日々の暮らしをのぞかせてもらってきた。

やがて気づいたことがある。それは、漁村を真に支えているのは実は女性たちだ、ということだ。人口減少、高齢化、漁獲量の低下、魚価安、言い出したらきりがないくらい、現在の漁村の状況は厳しい。一方で、これまでは猫マタギなどといっていた魚を集めて加工したり、地元の水産物を味わってもらおうと食堂を始めたり、体験メニューや漁家民泊で漁村観光業を興したり、漁村の起業活動がどんどん生まれてきている。これらの活動の立役者の多くは、漁村の女性たちである。

女性たちの起業の規模は概して小さい。けれども、その小さな活動が地元の漁業を下支えし、活動する一人ひとりの生活に力を与え、地元の水産物や食に光を当てている。自分のまちには何もない、という人がいるが、何もない地域などどこにもない。要は、それぞれの地域が持っている宝物に気づき、それを生かしていけるかどうか、ということだ。

女性たちの活動は、地域に眠っている原石を一つずつ拾い上げ、丁寧に磨いていく作業といってもよいだろう。そして活動の原動力として、女性たちが楽しみながら取り組む姿勢がある。みんなで稼いでハワイに行こう、というような柔軟な気持ちは、周囲の人たちにもなんだか元気を与えるのではないだろうか。 女性たちは、漁村を変えることができる。

(注:『僕たちは世界を変えることができない。』は葉田甲太氏によるノンフィクション。2011年に映画化された。ただし当然ながら、本文とは全く関係ありません)

(筆者は毎号交代します)

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