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コラム

2013/10/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

情報化時代を生きる力

観光学部観光学科 本田量久 准教授

今日、インターネットをはじめとする技術の著しい発展によって、時間―空間の物理的制約をこえて、容易に大量の情報にアクセスし、また世界に向かって自由に情報を発信することが可能になった。では、このような新たな情報化時代の到来によって、はたして私たちの世界は広がっただろうか。情報の絶えざる更新と増大は、逆説的にも情報の陳腐化と世界観の細分化を促し、人々の無関心や社会不安を醸成する。経済、政治、社会、国際情勢における不確実性が高まるとき、この傾向はさらに強まる。

情報の増殖は、必ずしも選択肢の拡大を意味しない。むしろ、情報の海を漂流し、方向感覚を失うとき、人は判断停止に陥り、単純で自己完結的な思考回路へと促される。自らの利害や世界観に合致する「有益」な情報のみに志向する一方、それ以外の情報は「無意味なもの」や「悪」として排除することさえある。「答え」が見えにくい不確実性の時代にあって、安心感を求めるべく自己の世界に埋没する。

一つ事例を挙げよう。2001年の同時多発テロ以降、米国政府は、テロにおびえる国民を標的とした情緒的な情報操作を展開し、「正義の戦争」を大義名分とした「対テロ戦争」へと暴走していった。混沌(こんとん)と恐怖の中で情報の正確性を判断する力を奪われた国民は、アメリカ的価値の普遍性を信じる一方、批判的な国々/人々を、テロ国家/テロリストと断罪する素朴な「善悪二元論」へと陥った。このように非理性的な大衆心理が強化されたのは偶然ではない。この事例は極端かもしれないが、私たちも自分たちの世界観を絶対的基準として思考することは少なくない。

世界中で複数の「正義」が衝突し合っている。情報化時代にあって、相互理解に向かうどころか、分裂を繰り返しているように見える。しかし、世界観の分裂は必然ではなかろう。私たちは一方で、多様な世界観を知る機会にも恵まれている。多様性を尊重し、建設的な相互理解を構築すべく、文化、宗教、国家をこえたコミュニケーションが求められている。

(筆者は毎号交代します)

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