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コラム

2018/09/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

正確と誤差のあいだに

工学部精密工学科 内田ヘルムート貴大 講師

12~17世紀にかけてドイツの多くの地域で建てられた木組みの家々(Fachwerkhaus)は、地上階よりも2階の壁が、さらに2階よりも3階の壁が道路側に飛び出ている場合が多い当時の税金の基準が家の敷地面積で決められていた町が多く、「払う税金は同じでも広い家に住みたい」ということで、多くの家は高い階ほどせり出した構造となった。数百年の時を経た木組みの建物は当然ながらゆがみ、修復のたびに敷地面積が正確に測り直された。このゆがみさえも美しく味のある街並みに欠かせないものとなっている。私が長く居住したドイツ中部のゲッティンゲンも、そのような街並みであった。

ブレーメンやアムステルダムなど、欧州北部の一部地域は運河や海運によって発展した。穀物や商品を運び込むための滑車が取りつけられた伝統的な建築様式の家々が並び、多くの建物は間口が狭く奥行きがあるという共通点がある。これも、17~18世紀にかけての税の一部が各戸の間口の広さで決められていたという歴史的な経緯がある。やはり「なるべく広い家に住みたい」ということで、結果的に「うなぎの寝床」のように奥行きのある敷地に家が建ち、時を経ても横幅がない土地のまま、次の家へと建て替えが繰り返し進められた結果、今の映える街並みとなった。建て直しのたびに間口の長さは正確に計測された。

町や国の貿易と発展には測量技術の進歩、すなわち正確な長さの定義や単位の統一、誤差の小さな測長技術の発展が大きな役割を果たした。先述のブレーメンを含む中世から続く欧州の多くの都市の中心にある市場には「ローラント像」があり、その膝と膝の距離などが各都市での長さの基準、すなわち現代でいう「メートル原器」であった。町ごとに少しだけ尺が異なることを知る一部の商人がひそかに儲けていたという逸話も残る。

科学技術の進歩の中、現在は長さの単位は光の速度と時間の関係性を使ってより厳密に定義されている。しかし、ガウスも論じていたように、どんなに正確な計測でも誤差は必ず生じる。この誤差をいかに扱うかという点は、今後も人類の発展にとって重要なテーマとなるだろう。

(筆者は毎号交代します)

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