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コラム

2017/07/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

スイヘーリーベボクノフネ

理学部化学科 冨田恒之准教授

スイヘーリーベボクノフネ。その文章の意味はさっぱりわからないが、利用法は多くの人が知っている。中学や高校で化学を勉強するとき、元素の周期表の暗記に使ったのではないか。試験ではそれなりの有効性があり、一方で「化学は暗記」という印象を与える象徴ともいえるだろう。中学生は高校受験を、高校生は大学受験を重視するのは当然で、点数につながる勉強をする必要性も理解できる。

しかし、大学では様相が変する。周期表を暗記する必要はない。必要なときに見ればいいのだから。化学に限らず、高校までの勉強と、大学の授業には大きなギャップがある。その主な要因は次に受験がないことだろう。点数を取るための勉強ではなく、知識をどのように活用するかが重視される。高校の英語では受験を突破できる文法が必要だが、仕事で英語を使うときには少々間違っていても相手と意思疎通できればいい。勉強したものを何に使うのか、その目的に応じて勉強の仕方も変えなくてはならない。高校までで身についた習慣は根強く残りがちだが、大学ではその意識を切り替えてもらいたい。

私のような「化学屋」にとって元素は大切な商売道具である。八百屋が野菜を、魚屋が魚を知っているのと同じように、化学屋は周期表を覚えている。それでも多くの研究者が仕事場に周期表のポスターを張っているのを目にする。単なる飾りとしてではなく、実際に利用することが多いのだ。

今使っている元素の上下左右にどんな元素があり、次につくる物質をどのように選択するか、周期表を眺めながら研究計画を立てる。これが化学屋の周期表の使い方の一つであり、暗記した「スイヘーリーベ」より、視覚的に扱えるポスターのほうが有用性はずっと大きい。暗記の記憶を利用しないことで他の部分に思考を集中できる。
 
周期表には100以上の元素が載っているが、放射性元素を除くと実質的に化学で利用する元素は81種である。この数を多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれだが、少ないと感じる人たちはみな、化学は暗記ではないと同意していただけると思う。

(筆者は毎号交代します)

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