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コラム

2015/08/01
学生と日々接する中で感じていることや思いなど、
毎年3人の東海大学の教員がそれぞれの視点からつづるリレーエッセイ。

足元の「へいわ」を考える

文学部ヨーロッパ文明学科 柳原伸洋 講師 

湘南キャンパスへ向かう道すがら、ふと足元を見ると、「おすい」マンホール。ヨットが描かれ、左右にそれぞれ「湘南」「ひらつか」、その下に「へいわ」「たなばた」という文字が刻まれている。

「へいわ? たなばた? 何だろう?」。そう思って、次に向かった先は11号館図書館。そこで、『平塚市史』をひもとき、「七夕まつり」の項目を見つける。同書いわく、平塚市の七夕まつりは、戦災復興5周年を記念する復興祭りを継承し、1951年から始められたとある。ここで、「へいわ」と「たなばた」が結びついた。平塚は、45年7月に大規模な空襲を受け、死者数は237人(諸説あり)にのぼる。戦災からの復興・平和のシンボルとして、「七夕まつり」が生み出されたのである。

目に見える平和のカタチを探し出すのは難しい。対して、戦争には多くの「モノ」が使われ、個別具体的な死があり、それらが戦争を象徴する。私が研究している空襲も、モノの大量消費にほかならない。つまり、巨大産業が生み出した大きな爆撃機が、大量の爆弾をその言葉の意味どおり「消費」していくのだ。

先ほど「平和のカタチ」を見ることは難しいと書いたが、毎年開催される平和祈念式典、そして平和公園や平和通りなどの「平和」を冠した場所は数多く存在する。実は、それらの公園や通りは、もともとは軍用施設であったケースが多い。戦後日本は、戦災の悲惨さを忘れ去るかのように、モノを強迫的に消費し、経済復興と平和を結びつけてきた。北海道旭川市の歩行者天国が、過去に「師団通」と呼ばれ、現在は「平和通買物公園」と称されるように、日本はモノ消費によって、平和を形づくろうとしてきたとはいえまいか。

しかし、これでよかったのだろうか。それが今、問われている。21世紀の現在における平和のカタチとは何なのだろうか? 平和の議論は空中戦に陥りやすい。だから私は、地面を歩き、平和公園、記念碑、慰霊祭などの「平和の現場」を訪れる。平和のカタチを探る旅は、戦争の定義もあいまい化しつつある今日、その輪郭を浮き彫りにする旅でもある。

マンホールに刻まれた「へいわ」。まずは足元から、平和のカタチについて考えてみたい。

(筆者は毎号交代します)

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