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研究

2020/06/01

臓器線維症の診断・予防・治療法開発が進展

【マトリックス医学生物学センター】
文科省採択プロジェクトの成果を報告
唯一無二の研究機関として病気のメカニズム解明へ

大学院医学研究科マトリックス医学生物学センターをプラットホームとして医学部医学科の研究者らが取り組んできたプロジェクト、文部科学省「平成27年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業『臓器線維症の病態解明と新たな診断・予防・治療法開発のための拠点形成』」の採択期間が昨年度で終了。このほど報告書がまとめられた。研究代表者の稲垣豊教授(同センター長・基盤診療学系先端医療科学)に5年間の成果と今後の展望を聞いた。

臓器線維症は、コラーゲンやヒアルロン酸といった細胞間物質(細胞外マトリックス)の過剰沈着により臓器が線維化して硬くなり、機能不全をきたす病態をいう。肝臓や肺、腎臓などさまざまな臓器に発症し、進展するとがんに至るケースもある。

同センターは、各臓器の線維症の病態や進展機序に多くの共通性があることに着目し、本来は細胞の発生・分化や老化などの生命現象に重要な役割を果たす細胞外マトリックスが、線維症においてどのように変化しているかを臓器横断的に研究するための拠点として、2014年度に設立。翌年度に「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の採択を受けて研究を展開してきた=図1。

「人と人との円滑なコミュニケーションによって健全な社会がつくられるように、細胞同士の関係も良好に保たれなければ体の成長や健康の維持はできません。細胞間をつなぎ、コミュニケーションツールとして働くのが細胞外マトリックス。その唯一無二の研究機関としてマトリックスの必要性と有害性、病気のメカニズムを解明し、治療に役立てるのが目標です」と稲垣教授は語る。

3テーマ5件の特許出願 若手育成にも高い評価

プロジェクトには、細胞の発生や免疫、酸化ストレス、遺伝子改変マウスの作製などを専門とする基礎研究者と、消化器、呼吸器、腎・代謝内科など線維症診療に携わる臨床医13人が参画。6人の特定研究員や多数の大学院生ら若手研究者の育成にも力が注がれた。

研究は3つのテーマで推進=図2。「基盤技術部門」ではマトリックス成分の動きを目で追えるゲノム編集マウスなどの作製に成功し、「診断技術部門」では線維肝の診断マーカーとして、血液内を循環する細胞外小胞(エクソソーム)に包まれOGFRL1を見いだした。「治療開発部門」では、線維肝の治療標的分子として、OGFRL1とTcf21を同定。3テーマについて5件の特許が出願されるなど、多くの画期的な成果が報告された。

外部評価者からは、5年間の成果について、「きわめて機能的な体制により、基礎から臨床応用につながる研究が進展した」「若手研究者が学会発表での受賞や論文発表といったさまざまな成果を上げ、独立行政法人日本学術振興会特別研究員や国内外の研究機関への派遣、学内での教員採用に至ったのは素晴らしい実績」といった講評があり、今後の展開に対する期待が寄せられている。

臨床応用に向け加速 新分野の発展目指す
特許出願された2つの新規分子に関する研究は、いずれも国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業に採択されている。

同センターの研究者らが専門領域や世代をこえて連携するとともに、総合臨床研究センター、総合医学研究所、先進生命科学研究所、マイクロ・ナノ研究開発センターなど学内の研究機関や他大学、さらには企業との共同研究も推進されつつある。

「プロジェクトが順調に進められたのは、大学全体による支援があったおかげです。文科省への事業申請から施設の整備、研究者の登用など、事務系職員も全面的に力になってくれました。一丸となって協力してくれた教職員の皆さんに感謝しています」と稲垣教授は話す。

「今後の課題は、新規治療法のヒトに対する有効性や安全性を確認するための臨床試験を早期に開始し、臨床応用に向けて研究を加速させること。『マトリックス医学生物学』という新しい学問分野の発展に向けた努力も続けます」

【ZOOM IN】次世代型線維肝治療の早期実現を目指す
マトリックス医学生物学センター 柳川享世 特任助教

「マトリックス医学生物学センターに着任して感じたのは、研究領域の垣根がないこと。多様な分野の専門家と自由に意見を交わせる環境に刺激を受けました」と柳川享世特任助教(医学部医学科基盤診療学系先端医療科学)は語る。「多彩な研究者を招いたセンター主催のセミナーも、最新知識を習得し、自分の研究に関するヒントを得る貴重な機会。『必ず質問する』ことを目標に聴講し、集中力と瞬発力も身につきました」

東京工業大学生命理工学院を経て2015年度に東海大学医学部へ。翌年度から同センターの特定研究員として稲垣豊教授の研究室に所属し、エクソソーム内包タンパク質OGFRL1が肝臓の線維化の診断マーカーや治療効果の判定指標、さらには新規の治療薬開発につながる可能性を突き止めた。「生命科学統合支援センターの熟練した技術職員の協力を得て実験できたことも結果を出せた要因。多くの人に助けられています」と振り返る。

同研究は、「エクソソーム内包再生促進因子に着目した線維肝再生の新たな診断・治療法の創出」として、18年度からAMEDの肝炎等克服実用化研究事業の採択を受けて進めている。「マウスの実験で明らかにしたOGFRL1の線維肝への関与をヒトで実証するのが現在の課題。本学の消化器内科学の先生や京都大学、山口大学の研究者らとも共同研究を進めています。次世代型の肝線維症の治療法の早期実現に向けて研究を充実させたい」

 

(上写真)「大学全体の支援に感謝します」と語る稲垣教授
(下写真)同センター主催のシンポジウムで研究成果を発表

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