特集:教育の現場から
2020年11月1日号
【医学部医学科】TBLをオンラインで実施
医学教育の新たな挑戦

東海大学の各学部学科ではアクティブラーニング(能動的授業)を積極的に取り入れることで、教育の質向上が図られている。医学部医学科ではTBL(Team-based learning:小グループで課題解決に取り組む学習)を2016年度に導入。今年度は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて対面授業が困難になる中、医学教育学領域の教員らが中心となって、オンラインによるTBLをスタートさせている。

10月5日に行われた3年生の「臨床病態学2・整形外科学コース」のTBL授業。担当の内山善康准教授(外科学系整形外科学)が伊勢原校舎で見つめるWEBビデオ会議システム「Zoom」の画面に、続々と学生の顔が映し出される。

内山准教授の説明を受けた約120人の学生たちは、10問の選択問題(図1参照)を、事前学習した知識のみで解いていく。個々の回答(IRAT)後は、Zoomのブレイクアウトルーム機能を利用して約6人のグループに分かれ、議論を通じてチームとしての回答(GRAT)を出す=図2参照。教員は個人とグループの回答をリアルタイムで把握し、討議の状況を確認。最後に、「なぜその選択肢を選んだのか」「なぜグループ討議で回答が変わったか」などを学生に問いながら、正解や学習のポイントを解説していった。

10月16日に行われたTBLは、亀谷美恵准教授(基礎医学系分子生命科学)が担当する1年生の「医学英語」。英文で書かれた基礎医学のテキストから、免疫機能に関する英文の基礎問題10問が出題された。グループ討議では活発な議論が展開され、教員への質問も飛ぶ。この日は基礎問題の解説終了後、応用問題にも取り組んだ。

集中力を要する能動的学習
TBLは産婦人科学を皮切りに、血液・腫瘍内科学、耳鼻咽喉科学といった領域の授業でも展開されている。
 

「学生が個々に学んできた知識をもとに仲間と議論する能動的な学習スタイル。チームで協力して結論を導き出す過程は、臨床現場におけるカンファレンスや多職種連携によるチーム医療にも役立ちます。自分の意見を発信することで知識の定着を促し、学生たちが刺激し合えるのも特徴」とアクティブラーニング推進委員長の浦野哲哉教授(基礎医学系医学教育学)は説明する。

医学科では今年4月、TBLやICTなど、個別に設置していた委員会を統合し、多様な教育領域の教員と事務職員により編成された「アクティブラーニング推進委員会」を立ち上げた。

「以前からICTを利用した教育手法を検討していましたが、コロナ禍で“待ったなし”の状態になった。そこで、医学教育学領域の教員が中心となり、これまで使用していたフリーの学習支援ソフトMoodleとZoomを併用し、対面と同様にTBLを運営できるシステムを構築しました」

教えるのは知識でなく知識の獲得方法
毎回授業後に実施するアンケートでも、学生から前向きな反応が返ってくるという。

「最も集中力を要する授業がTBL。勉強している実感が格段にある」と話すのは田村有里恵さん(3年)。「オンラインでも議論が盛り上がるのが楽しい」と笑顔を見せる。安森省さん(同)は、「意見を交わしながら答えを導く過程が面白い。先生方の進行が巧みで、いつ質問されてもいいように考え続けなければならないため、対面以上に緊張感をもって授業に臨んでいます」と語る。

浦野教授は、「TBLをはじめ、PBL(Problem-based learning=問題解決型学習)、模擬患者や医療用シミュレータ、ICTなどを活用したアクティブラーニングを充実させるとともに、5年生が1年生に一次救命処置をマンツーマンで教える『屋根瓦方式BLS実習』といったオリジナルの効果的な授業を発展させるのが使命。PBLのオンライン化も進めたい」と話す。

「医学知識は指数関数的に増加しており、数カ月で倍になるともいわれています。最先端の医療を実践するためには、生涯学び続けなければなりません。『魚を与えれば一日の飢えをしのげるが、魚の釣りかたを教えれば一生の食を満たせる』ということわざがありますが、これこそが大学教育の基本。知識を教えるのではなく、知識の獲得方法を教えるために有効な方法を追究し、実践していきます」


担当教授に聞く
ピンチはチャンス 学生も教員も意識改革を
伊勢原教育計画部 霤直算 部長(医学部医学科教授)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて多くの制限がある中、医学科でもさらに授業の質を向上させる取り組みを進めています。オンラインによるTBLもその一つ。4月から検討と準備を重ねて実施に至りました。

医師になるまではもちろん医師になってからも、すべてが順調にいくとは限りません。

困難に直面したときに、「なぜそうなったのか」を客観的に分析し、「何をどうすべきか」を冷静に判断して果敢に実践することが、よりよい医療につながる。それは教育に関しても同じです。

どのような状況でも障害を乗り越え、より効果的な授業方法を考え学生教育を進化させていくことが教員としての責務だと考えています。

今は、学生にとっても教員にとっても意識改革の好機。ピンチはチャンスであると前向きに捉えてコロナ禍を乗り越えれば、自然と医学科が目指す「良医」への道が開けていくと信じています。

 
(写真上から)
▼授業前に、整形外科学の教員らと打ち合わせする内山准教授(右から2 人目)。「あえて難易度が高めの問題を出して議論を促す。医師国家試験も意識しています」
▼「簡潔かつ論理的に話すスキルを磨く機会でもある」と亀谷准教授
▼「双方向の授業をさらに展開したい」と浦野教授
▼図2の上段は個人の回答(IRAT)、中段はグループの回答(GRAT)で、学生の名前と回答(色別)が表示される。下段はIRATとGRATの回答状況のグラフ。個人の回答にはばらつきがあるが、グループ討議により正解に集約されるのがわかる。ピンクの長方形で示されているのは討議の結果を発表する指定回答者※ IRAT は「Individual readiness assurance test」、GRATは「Group RAT」
▼伊勢原教育計画部 霤直算防長(医学部医学科教授)