特集
臨空だより
2023/05/01新キャンパスは、写真手前側(南側)の「アグリ・ゲート」から空港側(北側)の「スカイ・ゲート」へと中央を貫く「T・ランウェイ」を中心に、東側に1号館、2号館など教室や研究室などが入る建物が配置され、西側に圃場や実習棟が広がっている(写真提供=フェニックスカレッジ熊本オフィス)
新キャンパスは、今年3月23日に新旅客ターミナルがオープンし、アジアへの玄関口として期待が高まっている阿蘇くまもと空港の南側約700メートルと至近距離の立地。全体で約11ヘクタールある敷地内には、教育・研究棟である1号館、2号館のほか、食品加工、学、動物の各教育実習棟、乳牛舎、豚舎、緬羊舎など計30棟を設置。新築建物の面積は約2万4000平方メートル、既存建物の改修面積は約3400平方メートルとなっている。
建物の配置は、東海大の校旗に描かれた十字の白線が示す「横が愛、縦は正義を表し、愛と正義の交わるところに真理がある」という理念を踏襲。タテとヨコを意識した計画となっている。校舎の南にアグリ・ゲート、北にスカイ・ゲートを設け、二つの門をT・ランウェイと名づけられた直線の大通りが結ぶ。
メインの建物となる2号館は、「ロ」の字型の研究実験講義棟。中庭を中心に、学生の動線が交差する場所にコミュニケーションスペースが設置され、学年や学科を超えた偶発的な出会いを誘う回遊型校舎を意図した設計となっている。さらに、敷地の高低差を利用して他の建物やフィールドとのつながりも考慮された。熊本地震の経験を生かし、災害時におけ安全確保を優先するため1号館と2号館の一部は一時避難所に指定されており、72時間の電力供給が可能な非常用発電機も設置されている。
また、宇宙情報センター施設は1号館として改修。内部には宇宙情報センターの機能も維持され、農学教育研究との融合によるさらなる発展も期待されている。
阿蘇くまもと臨空キャンパス2号館中央の中庭で4月7日に、授業開始に合わせた「スタートアップセレモニー」が開かれた。
初めに木之内均熊本キャンパス長があいさつし、「これから皆さんがこの校舎に命を吹き込んでいくことになります。ここは、地域に開かれたキャンパスを目指しています。教職員、学生、地域の人たちが一致団結して、これからの新しい農学部の歴史を築いてもらいたい」と語りかけた。
続いて九州学生会副会長の村上智洋さん(農学部4年)が、「自分を含め、皆さんがこのキャンパスの第1期生となります。歴史を紡いでいく者として、皆さん張り切って授業を頑張っていきましょう」と呼びかけ。キャンパスのスローガン「Action ともに創ろう、新たキャンパス。」がデザインされたペットボトルが配られ、村上さんによる「阿蘇くまもと臨空キャンパス、農学部の輝かしい未来を願って!」の音頭で乾杯。キャンパスのスタートを教職員、学生が共に祝った。
参加した学生たちは、「周りに多くの自然がある環境で学べるのはうれしい」「まだ一部の施設しか見られていないので、どこに何があるのか探検したい。新しいキャンパスはワクワクします」と新しい学び舎での生活に心を躍らせていた。
農学部動物科学科の2年生は「牧場実習」の一環で羊の毛刈りに挑戦。同キャンパスで飼育している羊(サフォーク種および交雑種)の毛刈りは1年に1回、農産物としての羊毛を収穫し、羊の健康状態の確認や夏の暑さ対策などを目的に、毎年春に実施されている。羊たちは3月9日に、ほかの動物たちと共に阿蘇フィールドから移動しており、同キャンパスでの毛刈りは初めての実施となった。
実習エリアに設置された動物教育実習棟の教室で、技術職員から羊と人との関係性について講義を受けた学生たちは、緬羊舎から羊を運び出して体重を測り、毛刈りをするためにおとなしく座らせる方法や専用の電気バリカンの使い方を学んだ。技術職員の手本を見学し、1年間で10センチから15センチ程度伸びた毛を順番に刈り取っていった。
多々野桜子さんは、「毛刈りの様子は本で見たことはありましたが、毛の脂っぽさや刈り取った後の肌の温かさなど、実際に自分で体験し、触れてみて初めて分かることがたくさんありました。新しいキャンパスは座学と実習が同じ敷地内でできるので、これから多くのことを学びたい」と期待に胸を膨らませていた。
農学部 岡本智伸 学部長
農学部や大学院農学研究科、生物科学研究科が4月から新設された「阿蘇くまもと臨空キャンパス」に移りました。学部の2年生以上は、原則としてこのキャンパスで専門性の高い学びを深め、研究に取り組んでいくことになります。本格的に使用が始まった4月7日以降、学生たちの様子を見ていると、皆新しい環境を好意的に受け止めてくれているようでうれしく感じています。
2016年4月の熊本地震まで、農学部は南阿蘇村の「阿蘇キャンパス」に置かれていましたが、大きな特徴の一つが、教室や研究室が置かれた建物のすぐ隣に、圃場や牧場、食品加工場といった実習場がある一体となった環境でした。その地で学生や教員たちは、座学で得た知識や研究の成果を、すぐに現場で確認できていたのです。この恵まれた環境が、本学部の大きな柱である“学生の主体性を生かした教育研究”を実現させ、他大学の農学部とは一線を画す存在となっていました。
熊本地震によってその環境は失われてしまいましたが、農学部の先生方や関わる職員の皆さんはポリシーを失うことなく努力を続けてきました。震災直後には近隣の農業関係者の多大な協力を得て学生の実習環境が確保できましたし、阿蘇フィールドには学生が実習授業で使用する建物として「農学実習場」も整備され、農学部の灯をつないできました。
農学は一人の利益を追求する社会ではなく、皆が未来にわたって生きる糧を得られる社会の実現に貢献する学問です。時代のニーズを捉え、未来を見据えて発展につなげなくてはなりません。そのためのハードは整っても、ソフトの充実が重要。私たち教員の責任は大きく、キャンパスができた達成感より、「これからだ」と気持ちを新たにしています。学生たちにはぜひこの場所で積極的に「Action」を起こし、未来へと大きく羽ばたいてほしいと願っています。
農学部が4月14日と15日に「熊本地震追悼式」を行った。2016年4月14日と16日の2度にわたって最大震度7を記録した平成28年熊本地震では、熊本県内に居住する学生、教職員が多大な被害を受けた。特に阿蘇フィールド(旧・阿蘇キャンパス)とその周辺地域では甚大な被害があり、農学部の学生3人の尊い命が奪われた。14日は阿蘇くまもと臨空キャンパスと熊本キャンパスをつないで式を実施。15日には阿蘇フィールドで黙祷を捧げた。
臨空キャンパスで初めて行われた式では、初めに約150人の参列者全員で黙祷。木之内均熊本キャンパス長が「熊本地震から7年、多くの方のご支援があって阿蘇くまもと臨空キャンパスが完成しました。教職員、学生が一体となってキャンパスの歴史を築いていくことを誓います」と語った。また、学生を代表してスチューデントアチーブメントセンター・ユニークプロジェクト「阿蘇MIRAI広場」代表の小澤優香さん(農学部4年)は、「多くの学生を巻き込み、南阿蘇村の皆さんとの交流を深めていきます」と話した。
15日の阿蘇フィールドでは、農学部の教員と熊本キャンパスの職員や、新入生研修で同フィールドを訪れていた文理融合学部経営学科の学生たちが参列。全員で黙祷を捧げた。
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