share

特集

2014/11/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

ディスカバー“ニュー”ジャパン

外国人旅行者に受ける地域資源を掘り起こせ

観光学部観光学科 小澤考人 講師

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けて、東京の街は大きく変わりつつある。オリンピックのようなメガイベントと観光との関係性やホスピタリティ産業について研究する観光学部の小澤考人講師に、「観光立国ニッポン」に必要とされる新たな視点について聞いた。

昨年、日本を訪れた外国人観光客は1000万人をこえた。韓国、中国、台湾をはじめ、東南アジアからの観光客も増えた。東京では大型家電量販店を訪れる外国人観光客の姿は日常茶飯事だ。背景には、2006年の観光立国推進基本法の成立、08年の観光庁設置など、「観光立国ニッポン」への取り組みがある。観光分野における経済効果と地方の地域活性、雇用機会の増大などを期待する声もあり、国内外からさらに多くの観光客を呼び込もうという狙いだ。

五輪のもたらす開催地の観光効果
「観光立国ニッポン」に追い風となるのが20年の東京五輪。東京都がお手本にしようというのが12年のロンドン五輪だ。

「観光政策に対するロンドンオリンピックの『レガシー』」をテーマに研究する小澤考人講師は、ロンドンをお手本にする理由について、「世界金融の中心地の一つとしてグローバリゼーションの課題に即応しながら、伝統と革新性を共存させた都市での開催は参考になる」。

五輪やワールドカップといった一大スポーツイベントは、選手、関係者、試合観戦者など開催地に多くの人が訪れる。こうしたメガイベントで観光地施設のもたらす役割について、小澤講師は「観光学を学ぶうえで、その土地の文化や歴史、自然、経済などさまざまな視点から観光と結びつけて考えることが必要」と考える。ミクロな地域レベルからマクロな国家レベルまで、どのような背景や特徴を持った場所なのかを的確に把握し、その場所の魅力を効果的に伝える。こうしたプロデュース能力を育む基礎体力をつけるのが観光学だ。

「ロンドン五輪のマラソンコースは、旧市街の石畳で選手にとっては悪路だったようですが、見る側にとっては、バッキンガム宮殿にテムズ川沿いのロンドン塔など、ロンドンらしい美しい風景がありましたね。東京五輪のマラソンコースも新旧名所が目白押しです」

観光資源を発見プロデュース
東京や京都といった伝統的な観光ルートに加え、最近では、熊野古道、北海道でのスキー、古民家での宿泊など、従来の日本観光にはなかったプランが受けている。

「東南アジアの旅行者にとっては、りんご果樹園ツアーも人気です。日本の果物が高級食材として人気であるうえに、東南アジアでは栽培が難しいりんごの収穫体験など、新鮮さが受けているようです」

観光のスタイルの変化・多様化に合わせ外国人旅行客を呼び込む―そこには新しい発想とアイデアが必要になる。たとえば限界集落の空き家利用、一般家庭での食事などに興味を示す観光客は多い。「成功したケースの要因を考えることは簡単ですが、成功へ導くための一義的な答えはないと思います。いろいろな立場の人と協力しながら、柔軟に考えていかなければならないでしょう」

設立から4年を迎える観光学部では、学内外からワークショップやイベントなどの協力依頼が多い。神奈川県南足柄市内の観光促進イベントの協力、17 年に開館を目指す和菓子をテーマにしたミュージアムの設立など、“実践”は幅広い。

(写真)今年8月、調査で訪れたロンドン五輪のメーンスタジアムで



focus
「個」と「社会」の結びつきを視野に


小澤講師が現在の道を志したきっかけは、大学で出合った社会学と、魅力的な研究者たちだった。その一人に見田宗介教授(現・東京大学名誉教授)がいる。ゼミや研究室は常に熱心な学生たちの活気があふれ、カリスマ的存在だった。社会学とは、社会で起きる出来事や現象などを多角的な視点で見つめ、変化の過程や問題解決の糸口を探る学問だ。

「同じようなモノや現象が条件の違いに応じて異なる意味を持つ、そうさせる社会のメカニズムとは何だろうと興味を持ったのがきっかけでした。オリンピックも、アマチュアスポーツの精神から国威発揚へ、今では都市開発や観光と結びついて社会的課題の解決へと期待のまなざしが注がれています」

物事が成立する条件を探りながら、人と社会の結びつきを考える―「オリンピック開催に向けて社会的課題の解決に貢献するには、各地に眠る地域資源や文化要素を一人ひとりが自覚し、プロデュースしていく知恵を磨くことが重要だと思います。マイナスをプラスに変える力が観光やツーリズムにはある。そのために個と社会の関係を視野に入れることが、こうした問題を考えるヒントにもなると思います」

 
おざわ・たかと
1975年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科(国際社会科学)修了。専門は文化社会学・観光社会学。共著に『幻の東京オリンピックとその時代』(青弓社)。来年、『レジャー・スタディーズ』(共著・世界思想社)の刊行予定。

研究室おじゃまします!記事一覧

2024/02/01

アスリートの競技能力向上目指し

2024/01/01

適切なゲノム医療推進に向け

2023/04/01

湘南キャンパスの省エネ化へ

2023/02/01

"日本発"の医療機器を世界へ

2022/06/01

細胞のミクロ環境に着目し

2022/04/01

遺構に残された天体の軌道

2022/01/01

海洋学部の総力を挙げた調査

2021/12/01

体臭の正体を科学的に解明

2021/10/01

メタゲノム解析で進む診断・治療

2021/06/01

将棋棋士の脳内を分析

2021/03/01

低侵襲・機能温存でQOL向上へ

2021/02/01

安心安全な生活の維持に貢献

2020/11/01

暮らしに溶け込む「OR」

2020/09/01

ネルフィナビルの効果を確認

2020/07/01

次世代の腸内環境改善食品開発へ

2020/06/01

運動習慣の大切さ伝える

2020/05/01

ゲンゴロウの保全に取り組む

2020/03/01

国内最大級のソーラー無人飛行機を開発

2019/11/01

新規抗がん剤の開発に挑む

2019/10/01

深海魚の出現は地震の前兆?

2019/08/01

隠された実像を解き明かす

2019/06/01

椎間板再生医療を加速させる

2019/05/01

自動車の燃費向上に貢献する

2019/04/01

デザイナーが仕事に込める思いとは

2019/03/01

科学的分析で安全対策を提案

2019/02/01

幸福度世界一に学べることは?

2019/01/01

危機に直面する技術大国

2018/12/01

妊娠着床率向上を図る

2018/10/01

開設3年目を迎え利用活発に

2018/09/01

暗記ではない歴史学の魅力

2018/08/01

精神疾患による長期入院を解消

2018/07/01

望ましい税金の取り方とは?

2018/05/01

マイクロ流体デバイスを開発

2018/04/01

ユニバーサル・ミュージアムとは?

2018/03/01

雲やチリの影響を解き明かす

2018/02/01

海の姿を正確に捉える

2018/01/01

官民連携でスポーツ振興

2017/11/01

衛星観測とSNSを融合

2017/10/01

復興に向けて研究成果を提供

2017/09/01

4年目を迎え大きな成果

2017/08/01

動物園の“役割”を支える

2017/06/01

交流の歴史を掘り起こす

2017/05/01

波の力をシンプルに活用

2017/04/01

切らないがん治療を目指す

2017/03/01

心不全予防への効果を確認

2017/02/01

エジプト考古学と工学がタッグ

2017/01/01

コンクリートの完全リサイクルへ

2016/12/01

難民問題の解決策を探る

2016/11/01

臓器線維症の研究を加速

2016/10/01

情報通信技術で遠隔サポート