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特集

2017/01/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

コンクリートの完全リサイクルへ

「戻りコン」の再利用技術を開発
工学部土木工学科 笠井 哲郎 教授

ビルや道路から下水管まで、私たちの生活のあらゆる場所でセメントとコンクリートは活用されている。そうした生活に欠かせない土木・建築材料の再資源化を実現する技術に携わり、昨年8月には「第14回産学官連携功労者表彰」の環境大臣賞を受賞した工学部土木工学科の笠井哲郎教授。業界の現状や最新の研究成果を聞いた。

「セメントやコンクリートは、国内の土木・建築材料使用量の7割から8割を占めています。その一方で、最も再利用が進んでいる建材の一つでもあるのです」

笠井教授が研究を始めた1990年ごろには65%程度だった再利用率は、2000年に建設リサイクル法が制定されて研究開発が進んだ結果、12年時点で99%をこえている。もう一つ重要なのが、家庭用ゴミからなる一般廃棄物をはじめ、製鉄所や発電所から生じる産業用廃棄物の再利用にも大きな役割を果たしている点だ。

「ゴミ処理場や火力発電所から生じる焼却灰など、約4250万トンがコンクリートの材料として再利用されています。コンクリート自体の再利用量と合わせると、全分野の再利用資源総量の約4割を占めているのです。日本の循環型社会は、このコンクリートの分野がなければ維持できないほど大きな役割を担っています」と話す。

付加価値をつける 新技術の開発に挑む
笠井教授は、企業や研究機関と連携して長年にわたって、そのまま処分すれば産業廃棄物となってしまう素材の再利用技術の研究に取り組んできた。たとえば家庭用のバスタブの材料として広く使われている繊維強化プラスチック(FRP)は、長く再利用の道がなかったが、1998年にはコンクリートの強度を高める補強材として使う技術を発表。また2002年には、使用済みの発泡スチロールを再利用して軽量コンクリートを作る技術を開発した。

「本当の循環型社会を実現するためには、廃棄物を再利用するだけでは意味がありません。低コストかつ新しい材料だけで製造する『バージンセメント』にはない付加価値をつけることで、リサイクル業者の採算性を高めることも重視してきました」と語る。

未利用資源を活用 環境大臣賞を受賞
コンクリートの再利用率が高まる中、残された大きな課題の一つが「戻りコンクリート」の活用だった。コンクリートは通常、セメントや砂、水などの材料を工場で混ぜ、アジテーター車で現場に運搬して利用する。その際、施工者が万が一に備えて多めに発注するため、どうしても使用されずに残る「戻りコン」が生じてしまう。

「戻りコンは前述のコンクリートの再利用率の統計にも含まれず未利用でした。しかし、廃棄物として最終処分すると費用がかさむため、業者の経営を圧迫する要因になっていました。その課題の解決を目指しています」

笠井教授は、この技術を鹿島建設、三和石産と共同で研究。戻りコンから砂と砂利を取り出して再生利用するとともに、残りの液体(懸濁液)から取り出した固形微粒分を乾燥させて「SRセメント」を生成し、産業副産物からなる混和材と混ぜることで、鉄筋コンクリートにも使える高い強度を持った材料を生み出すことに成功した。「セメントを生成する際には通常、1トンあたり0.7トンの二酸化炭素を排出していましたが、この方法なら9割ほど減らせます。また、バージンセメントの使用量も減らせます。その意味でも環境負荷が少ないのです」と語る。

この研究で「産学官連携功労者表彰」の環境大臣賞を受賞した笠井教授。「今後も行政や企業と連携しながら技術の実用化を進め、コンクリートの地産地消と完全リサイクルを実現するシステムをつくり上げたい」



focus
工学的な思考力で
正しいものを見抜いて



コンクリートの研究に取り組むようになったのは、恩師の人柄に触れ、「コンクリートのマイナスイメージを払拭したい」と思ったのがきっかけだった。

「私が学生だった1980年代後半には、“コンクリート・ジャングル”という言葉に代表されるように、実情と関係なく自然環境に害をもたらす材料の代名詞のような扱いを受けていました。それを何とか払拭したいと思ったのです」と振り返る。

コンクリートは高強度で耐火性や耐水性も高く、安価に製造できる現代社会の維持に欠かせない材料。だが、緑豊かな自然を破壊するというイメージが先行していたことから、「循環型社会に貢献できるコンクリの技術を開発するために、流行に左右されず社会にとって大切だと思う研究を続けよう」と考えてきた。

だからこそ学生たちには「偏見やイメージに左右されず、正しい情報を選別して判断する力」を身につけてほしいと語る。

「世の中には不確かな根拠に基づく情報が大量に出回っている。そうしたものに振り回されないためにも、これからの時代を生き抜くリテラシーとして科学的、定量的、工学的な思考力を磨いてほしい」
 
かさい・てつろう
1959年山梨県生まれ。防衛大学校卒業後、広島大学大学院工学研究科構造工学専攻博士課程後期修了。工学博士。小野田セメント中央研究所勤務を経て94年から現職。土木学会関東支部支部長。

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