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特集

2021/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

安心安全な生活の維持に貢献

熱を電気に変える熱電素子で
工学部材料科学科 高尻 雅之 教授

「発電」と聞くと、火力や太陽光などの技術を思い浮かべる人が多いだろうが、近年、利用する場所で小さな電気を起こせる技術への注目が高まっている。わずかな温度差から電気を生み出せる「熱電変換素子」(熱電素子)に関する技術の研究を続ける、工学部材料科学科・高尻雅之教授の研究室を訪ねた。

熱電素子が注目を集めるようになったのは、生活のさまざまな部分で小型のセンサが活用されるようになってきたことが一因だ。
 
たとえば携帯電話では、本体の向きを検知する「加速度センサ」や位置情報を取得する「GPS」、赤外線センサなどが組み込まれている。ほかにも車の衝突安全装置は超音波センサで動き、発電施設や電車のパンタグラフには安全確保のために電流センサが組み込まれている。
 
高尻教授は、「センサは人々の豊かで安全な生活を支える重要な存在です。ただ、従来のセンサは電池や電源が必要になり、小型化の制約となっているだけでなく、設置後も交換や維持にコストがかかっていました。そうした課題を解決できる電力供給源として、熱電素子が期待されているのです」と話す。

多角的な視点から よりよい素子を開発
熱を電気に変換する熱電素子にはさまざまな種類があるが、高尻教授が手がけているのは、室温レベルで生じるわずかな温度差で微弱な電力を起こせる素子の開発だ。
 
「センサには少ない電力で稼働できるものが多い。大気と地面の間で生じるわずかな温度差から電力を起こせる素子を使えば、どこかから電源を引いてくる必要も、電池交換も必要ない自律型センサが作れます。そうした活用法を目指した素子の開発を進めています」
 
その一つが、ビスマステルルという合金を使った高効率素子の合成技術だ。材料合成の分野では比較的低温だという190度で原材料を合成することで、正六角形の素子中央にきれいな穴を開けて表面積を広げ、従来のものよりも効率を高めることに成功した。

ただ、ビスマステルルにはレアアースが使われていることから、より環境負荷の少なく、価格も安いカーボンナノチューブを主原料にした素子の開発も進めている。従来はプラスの電力を起こすP型という素子しか作れなかったことが大きな課題になっていたが、加工法を工夫することでマイナスの電力をつくるN型の製造にも成功。実用化に向けた大きな一歩を踏み出している。

薄くて自在に曲がる 生体センサへの活用も
さらに、熱と光(赤外線)の両方から同時に発電することが可能で、自在に折り曲げられる画期的な熱電素子の製造にも、アメリカ・マサチューセッツ工科大学とイタリア・ビコッカ大学と共同で成功。この技術は、携帯電話の電子基板などにも使われているカプトンという薄膜の上にN型のビスマステルルを成膜するもので、折り曲げるだけで発電するのが特徴だ。「カプトンの上に膜をつくるだけなので製造工程も簡単。素子を取りつけるだけで発電できるため、センサ周辺の回路を簡略化できるのもメリットです。さまざまな生体情報を得るウェアラブルセンサなどにも活用できると期待しています」
 
今後も多様な分野への活用が期待される熱電素子。「センサと素子を組み合わせた自律型デバイスができれば、災害時に送電網が寸断されても現地の情報を送ることができる。学生たちと協力しながら、これからもさまざまな角度からアプローチして素子の可能性を広げていきたい」



Focus
面白さを見つけることが成功への第一歩



高尻教授が熱電素子に出会ったのは、2000年ごろのこと。当時勤務していた小松製作所での配置転換がきっかけだったという。

同社では、1990年代から熱電素子の開発が続けられていたが、値段が高く、思うように効率が上がらないのがネックになっていた。その解決のために高尻教授が着目したのが、ナノテクノロジーの活用だった。

「従来のやり方では課題をクリアできないと考え研究を始めましたが、性能は急激には上がらず、地道に成果を上げる日々が続きました。20年かけて一つずつ成果を積み重ねてきたことで、ようやくウェアラブルデバイスに使える素子の開発までたどり着いた」と振り返る。

地道な研究の原動力になっているのは、「さまざまなことを面白がったり、不思議に感じたりすること」だ。「どんなに一生懸命に勉強や研究をしていても報われないこともある。会社では、不本意な仕事を任されることもあると思います。熱電素子に携わり始めた直後は私にもそんな気持ちがありました。しかし、その中から面白さや好きな部分を見つけないと、社会人として成功することはできないと思っています」
 
熱電素子を世の中の役に立つ技術に高めるため、高尻教授は東海大学でも研究を続けている。「いつか世の中をあっと言わせるような成果を発信し、人々のよりよい生活に貢献したい」

 
たかしり・まさゆき
1967年石川県生まれ。九州大学大学院総合理工学研究科博士前期課程修了後、93年から㈱小松製作所研究本部中央研究所に勤務。2002年から03年までマサチューセッツ工科大学客員研究員。07年、九州工業大学大学院生命工学研究科社会人博士後期課程修了。博士(工学)。12年、東海大学工学部材料科学科に着任。専門は熱電半導体素子。

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