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特集

2019/05/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

自動車の燃費向上に貢献する

工学部の研究グループが大きな成果
可視化技術でエンジン心臓部の“謎”に迫る

最近、電気自動車(EV)が一大ブームになっている。欧米だけでなく、インド、中国など各国による開発競争も熾烈だ。ガソリンで走る自動車はもう時代遅れかと思うような様相だが、実はドイツなどではより燃費のいい新型エンジンの開発が着々と進められている。日本でも産官学連携による国家プロジェクトが2014年から始まった。その一翼を担う工学部機械工学科の落合成行教授と畔津昭彦教授らのグループの研究に迫った。

そもそも、EV産業がこれほど盛り上がっているのはなぜだろうか? 長年自動車に関する研究に携わってきた畔津教授は、「エンジンの技術はきわめて高度なため新興メーカーが自主開発するにはハードルが高い。一方でEVは構造が単純で、環境にやさしいというイメージが先行しているためではないか」と指摘する。

EVは、車にモーターとバッテリーを取りつければ動かせる。だが、その動力源である電気の発電に膨大なコストがかかり、バッテリーの材料には有害物質も含まれる。落合教授は、「EVもある程度普及するでしょうが、ガソリンエンジン車がすべてEVに替わるとは考えにくい」と話す。

クリーンエネルギー先進国のイメージが強いドイツでは、EVと並行して、次世代エンジンの開発に国を挙げて着手。企業が資金を出し合い、既存の性能を大きく上回る高効率のエンジン開発や次世代を担う人材の育成が進められている。未来のエンジン開発へ共同プロジェクトが始動

そうした動きに対応し、14年に内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)がスタート。その一分野としてより燃費のよいエンジン開発を目指す「革新的燃焼技術」の「機械摩擦損失低減グループ」が立ち上がった(リーダー=東京都市大学・三原雄司教授)。プロジェクトには国内の研究者が多数参加。工学部から、落合教授と畔津教授のほか、山本憲司教授(建築学科)と髙橋俊准教授(動力機械工学科)が参画している。

落合教授らが担当したのは、エンジン効率向上の肝となるピストンの摩低減に関する研究だ。

エンジンの中では、シリンダー(筒)の中にガソリンが入ると点火し、その爆発で生じる力でピストンが回ることで動力が生まれる。落合教授は、「ピストンが動く際の摩擦を減らせれば劇的に燃費が向上するのですが、その内部で何が起こっているのかを見る技術はこれまでなかった」と語る。

そこで、各教員が持つ技術を融合させ、ピストンの上下動に合わせて、潤滑油とピストンリングがどのように動いているのかを可視化することに世界で初めて成功した。

これによって加工時のねじの締め方や爆発時の熱によって、シリンダー内に微妙な歪みが生じ、エンジンを高速回転させるとピストンリングとの間に大きな隙間が生じてしまうことが判明。エンジン内部で潤滑油の膜の厚さが変化する様子や、潤滑油がエンジンの燃焼室に流れ込んでいる様子を詳細に見て取れるようになり、潤滑油の動きをシミュレーションすることも可能にした。

この研究はSIPの最終審査でも高く評価され、4月からは国内自動車メーカーが結成しているエンジン研究の支援団体「自動車技術研究組合」の委託研究として継続している。落合教授らは、「研究成果は、エンジン開発コストの低減や、スピードの向上につながるだけでなく、トランスミッションなど他の部品内部でのオイル挙動の可視化にも応用できる。現在の自動車の燃費効率は30%ほどだが、国では将来的に50%を目指している。その技術の確立につなげたい」と話している。




Focus
成果を生んだ熱意の融合



落合教授らの成果は、専門分野の異なる4人の研究者の協力によって生まれた。落合教授は、回転する物体の摩擦を研究する「トライボロジー」に長年にわたって携わっている。そこに、畔津教授が手がける油の流れを可視化するフォトクロミズムと、山本教授の建築設計に用いる構造解析技術、気体と液体が混ざった物質の動きをシミュレーションする髙橋准教授の混相流解析技術が加わった。

山本教授は、「最初のミーティングでは、互いの使っている言葉の意味を理解するところから始まった」と笑顔をみせる。それでも、頻繁に話し合い、「互いの熱意に影響され、成果
を積み重ねていったことが結果につながった」と話す。髙橋准教授は、「異分野の研究者同士がそれぞれに尊敬し合う関係を築けたことが大きい。やる気のあるメンバーがそろった共同研究がこれほど面白いのかと、驚く場面も多かった。研究の幅も以前よりずいぶん広がりました」と語る。

研究グループでは、シリンダー内部の挙動を解析するソフトウェアの開発も目指している。落合教授は、「多くの部品を融合させて最適なものを作り出す自動車は、本来なら日本の得意分野。最近は海外勢に押され気味だが、東海大学発でALLJAPANのソフトを生み出し、その再生と発展に貢献したい」と話している。

 
(図)「機械摩擦損失低減グループ」は、油の動きと部品同士の摩擦、そこに構造解析と液体と気体の混合物質の動きをシミュレーションする研究を融合させた。研究プロジェクトには、各研究室に所属する学生たちも参画。実験や結果の分析で大きな役割を担っている
(写真)左から、畔津教授、髙橋准教授、山本教授、落合教授

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