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特集

2017/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

エジプト考古学と工学がタッグ

失われた古代の技術に迫る
特別編 「古代エジプト及び中近東コレクション」研究グループ

紀元前3100年ごろから紀元前30年まで、3000年の長きにわたって栄えた「エジプト文明」。東海大学にはその歴史を伝える考古資料や写真、映像資料を含む「古代エジプト及び中近東コレクション(AENET)」が所蔵されている。その公開に向けた作業が進む一方、古代の技術復元や新たな遺物解析技術の構築を目指す文学部と工学部による共同研究が昨年度から行われている。その現場を訪ねた。

研究は、文学部アジア文明学科の山花京子准教授を中心に、工学部材料科学科の葛巻徹教授、宮沢靖幸教授、応用化学科の秋山泰伸教授らの研究室が連携して行われている。山花准教授は、「エジプト研究で文理融合型の共同研究が成功している例は世界的にもほかにない。互いの専門を尊重しつつ連携できる、東海大だからこそ成立したプロジェクト」と話す。

古代の技術を復元 先進分野に生かす
このうち宮沢教授は、金属を熱処理によって接合する冶金技術を使った工芸品製造の技術復元を目指している。

山花准教授が提供した壁画を参考に、宝飾技術の専門家や工芸作家の助言を受けて装置の形状を改良。炭の並べ方や空気の送り方などを工夫して、今年1月には熱の吹き出し口部分の温度を900℃で30分以上安定させることに成功した。

宮沢教授は、「冶金技術は古代からあるが、その多くが失われている。技術の復元は、歴史的に意味があるだけでなく、新技術の開発につながる可能性もあると期待している」と話す。



一方の秋山教授は、硫黄のビーズを連ねたネックレスの復元に世界で初めて成功した。硫黄のネックレスはもろく、壊れやすいことなどから出土例が少なく、これまで用途や製法は明らかになっていなかった。

山花准教授の研究室が、当時の技術を参考に焼き物でビーズの型を作製。秋山教授が、提供された型の表面と穴を開けるために通すひもにオリーブオイルを塗り、溶けた硫黄を流し込むことで型離れもよく比較的容易に作製できることを明らかにした。「研究には学生も携わっており、古代の技術力の高さを知り、文理を問わず幅広い視野を養うよい機会になっている」という。

研究には工業設計技術サービス会社の㈱アビストも協力。同社の専門技術者が微細なビーズをスキャニングして3Dデータを作成して提供。ビーズの型作りに活用するとともに、提供されたデータをもとに3Dプリンターで打ち出して複製品を実際に手で触れて観察できるようにした。

既存の手法を応用新たな分析を提案
葛巻教授は、マイクロサンプリングという手法を使った金属器の分析技術の開発に取り組む。古代の金属器は通常、表面を観察し成分を推測する手法が広く用いられている。だが金属の表面は異物の付着や酸化の影響を受けやすく、実際の成分はわからないのが実情だった。

そこで、金属器から直径20マイクロメートル程度のサンプルを一定の深さまで数階層に分けて採取し分析器にかけ、成分や純度を明らかにする手法を開発。AENETの金属器を分析した結果、粗雑な金属製だと思われていた遺物が90%をこえる純度のものであったことが明らかになるなど、定説を覆す結果が現れている。

葛巻教授は、「この手法は遺物をほとんど傷つけることなく正確な成分分析ができる。今後は国内外に所蔵されている資料から多くのサンプルを集め、年代測定などに役立てられるデータベースを構築したい」と話している。

山花准教授は、「これまでの研究で、古代の人々が従来考えられていた以上に高い技術を持っていたことが明らかになってきた。今後も各分野の専門家や学生と研究を重ね、古代エジプトの技術を解明したい」と話している。

[もう一つの話題]学生たちも奮闘 “ファイアンス”の復元に挑む

文学部の開講科目「外国考古学地域演習」では、学生が昨年10月からガラス質の表面を持つ古代エジプトの陶器「ファイアンス」の製造技術再現に挑んでいる。ファイアンスはエジプトで広く用いられていたが、現在は製造方法が失われている技術の一つ。授業では最初に、山花准教授が基本的な性質や用途、材料を説明した後、学生たちがグループに分かれて材料の調合から加工に挑戦。失敗を重ねながら、半年間かけて技術の再現を目指している。今年度は工学部の学生も受講し、工学的な知識を生かした意見を出す。

学生たちは、「ファイアンスの再現は世界で誰も成功していない。だからこそやりがいがあるし、自分なりに考え、答えを導く力がついている。最も面白い授業の一つ」と充実した表情を見せている。
 
(写真上)宮沢教授の研究室が取り組む冶金技術の研究。学生たちは、「文理の壁をこえて考える力がつく。失敗の連続も古代の人々の足跡をたどっているよう」と意気込む
(写真中)秋山教授の研究室が再現した硫黄のネックレス(左)とその型
(写真下)失敗の結果を分析しながら真剣に取り組む学生たち
Key Word
AENET(鈴木コレクション)
東海大学が2010年に故鈴木八司名誉教授の遺族から寄贈を受けた古代エジプトを中心とする中近東に関するコレクション。考古資料約6000点、写真および映像資料約1万5000点、書籍6000点からなる。日本有数の規模を誇り、文学部と情報技術センターなどの連携によって公開に向けた整理作業が進められている。

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