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特集

2018/09/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

暗記ではない歴史学の魅力

史料をひもとき過去に迫る
文学部歴史学科西洋史専攻 三佐川亮宏 教授

「7(なくよ)94(うぐいす)平安京」「1(いいくに)192(つくろう)鎌倉幕府」。こんなゴロ合わせを使って、歴史の年号を覚えた人も多いのでは? その経験から、「歴史=暗記」というイメージを持つ人も多いかもしれない。しかし、大学で行われている歴史学の研究は、年号や人物名を覚えるものではないという。なんとなくわかっているつもりでも、深くは知らない歴史学。ドイツ中世史を専門とする文学部歴史学科西洋史専攻の三佐川亮宏教授にその魅力を聞いた。

「私たちでも年号などの細かな数字を忘れることはありますが、そのこと自体はあまり重要ではありません。歴史学においては、研究対象である出来事がどの事典、年表、あるいは文献に記載されていて、その背景には何があったのかを把握しておけばまず十分です」と三佐川教授は語る。

高校時代までに一生懸命覚えた“細かな数字”が大事ではないとすると、歴史学とはどのような学問なのだろう。

三佐川教授は、「まず残された史料と向き合い、過去に起こった事実を確定させていくこと」と語る。たとえば研究対象に関する史料が3点現存しているとする。しかし、内容がそれぞれ違っていたときには、その中の一つが正しいこともあれば、すべてが間違っている可能性もある。

そこで研究者は、年代を広げて関連する史料を比較したり、前後の出来事から推定したりしながら、少しずつ事実を洗い出していく。「この過程は史料批判と呼ばれ、歴史学の基本」なのだ。

事実の羅列では歴史にはならない
歴史の研究者は、史料批判を重ね、次に事実をもとにして積み上げながら過去の出来事を再構成していく。「年表をつくるように、事実を単に羅列するだけでは、何も見えてきません。そこに、個々の歴史学者の問題意識や研究を続けてきた経験に基づく解釈を加えて、事実に裏打ちされた歴史像をつくっていきます。これこそが私たちの学問です」

当然その歴史像も研究者によって異なることがある。しかし、「それこそが歴史学の魅力」と三佐川教授。「残された史料には、その当時生きていた人それぞれの視点や思いが詰まっています。そこから導き出される仮説が研究者によって異なるのはむしろ当然。時代が変われば問題意識や解釈も変わっていき、常に新しい視点から提起する
ことができる。だからこそこの学問は面白い」

史料との‟格闘“で定説が覆ることも
歴史学ではときに、定説と思われてきたことが覆ることがある。鎌倉時代を例に挙げれば、近年では幕府が開かれたのは1185年というのが定説で、ゴロ合わせなら「1(いいはこ)185(つくろう)鎌倉幕府」だ。さらに、日本史の教科書に載っていた源頼朝の肖像は、別人であるという説も発表され、話題になった。「そのような発見もまた歴史学の魅力です。頼朝の肖像が違う人物かもしれないのであれば、『頼朝だと思われていたこの人物は何者なのか』『なぜこの肖像が頼朝像として現代に伝わってきたのか』という疑問が生まれます。平凡な事実よりも“大胆なウソ”がわかったときのほうがむしろ歴史学者としての興味が引かれるのです」

歴史学の魅力を笑顔で語る三佐川教授の研究室には、専門であるドイツ中世史に関する膨大な史料が並ぶ。およそ1000年前に一時代を築いた人々から残されたメッセージを丁寧に分析した三佐川教授は、2013年に『ドイツ史の始まり―中世ローマ帝国とドイツ人のエトノス生成』を刊行。今年6月には、日本の学術賞として最も権威ある賞とされる日本学士院賞を受賞した。

「史料と〝格闘〞した実績やさまざまな人生経験こそ、歴史学において最も重要な力。だからこそ歴史学者の完成期は、経験が最も高まる60歳から70歳ともいわれています。研究を積み重ね、最終的に独自の大きな視点で歴史を叙述できるようになると『歴史家』と呼ばれます。これからも数多くの史料と向き合いながら、いずれ一般の人にドイツ中世史の魅力を伝えられるような本をまとめるのが今の目標です」


Focus
若い時代に自分の目で海外を見よう




「大学に入って間もない1年生でも、高校までの“歴史”との違いに戸惑うことがありますよ」と三佐川教授。クイズ番組やゲームなどをきっかけに歴史に興味を持つ学生も増えてきたというが、「きっかけは何でもいい。何よりも大切なのは、大学で多くの史料と向き合うことを通じて、歴史学の本当の魅力に気づくこと」と力を込める。

三佐川教授は自身の研究対象であるドイツに20代後半で初めて渡り、1989年にはベルリンの壁崩壊にも遭遇した。その経験から学生たちにも、「若いうちに自分の力で海外に行って多くの苦労をしてほしい」と伝えている。

「学生時代には自由な時間がたくさんあります。感受性が豊かな年代に、知らない土地に渡る経験はかけがえのないものになるはずです」

 

(図)文献以外にも絵画や本の挿絵なども歴史をひもとく重要な史料となる。上の史料は、15世紀に貴族に贈られたカレンダーの挿絵で、季節ごとに移り変わる当時の生活の様子が描かれている

みさがわ・あきひろ 北海道大学文学部史学科西洋史専攻卒業、同大学院文学研究科西洋史学専攻修士課程・博士課程を経て、1991年に同専攻助手。94年に東海大学の講師となり、准教授を経て2009年より現職。16年度には松前重義学術賞を受賞。

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