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特集

2019/02/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

幸福度世界一に学べることは?

日本の未来像を考える
文化社会学部北欧学科 柴山由理子 講師

国連が毎年発表している「世界幸福度ランキング」の2018年版で1位に輝いたフィンランド(日本は54位)。人口は約550万人と少ないが、17年の国民1人当たりのGDPは、フィンランドが45927ドルで日本が38449ドルと大きな差がある。そんなフィンランドに学べれば日本も再び活気のある国になれるかもしれない。同国の企業で働いた経験があり、政治や社会政策を研究している文化社会学部北欧学科の柴山由理子講師を訪ねた。

近年日本では、フィンランドの教育や社会制度から学ぼうとさまざまな書籍が出版されている。学校にはテストがなく、税金は高いけれど大学には無料で通えて、医療費もタダ、老後の生活も保証されている「夢の国」として描かれ、一種のブームになっている。
 
柴山講師はそんな風潮に「ちょっと違和感を感じる」という。「日本とフィンランドでは地理的な状況や歴史、人々の基本的な考え方が違います。単純に制度を学んでもあまり参考にならない」と指摘する。

たとえば産業化の歴史が違う。日本は明治時代から工業化が進められてきたが、フィンランドは第二次世界大戦後。本格化するのは1960年代になってからで、それ以前は農業国だった。「そのため、経済全体に製造業が占める割合が低い。また農業国を支えてきたタルコーット(talkoot)という共助の考え方が国民の間で根強く残っている反面、エンジニアのように現実主義的な考え方をする人も多く、双方の考え方が両立しているのも特徴」と語る。
 

フィンランドでは2年前から、失業者2000人に毎月定額を支給するベーシック・インカム制度を昨年12月まで試験的に実施した。そうした世界初の取り組みも、「まずはやってみて、結果から課題を抽出して社会をアップデートしよう」と発想する国民性だからこそできたことだという。
 
その背景には、ロシアやスウェーデンなどの大国に挟まれ、日本の自動車産業のような強力な基幹産業がない国ゆえの危機意識もある。「世界経済が冷え込むと、あっという間に失業者が増えます。だからこそ、政治や社会への国民の参加意識も高い。日本人の政治参加が低調なのは、まだ人々に余裕があるからだとみることもできます。

社会制度ではなく背景にある考えを参考に

では、そのフィンランドから日本が学べることはあるのだろうか? 「制度ではなく、行動の仕方や考え方などソフト面で参考になることは多い」と柴山講師。「フィンランド人は、効率よく働くために知恵を絞り、コンピューターなどの道具を最大限に活用し、職場や住環境づくりにもこだわる。また、『~するべき』という固定概念をベースにするのではなく、『~したらどうだろう』と考え、全体像をとらえながら個々の課題を解決しようとします。そういった思考方法やマネジメント法が参考になるでしょう」
 
少子高齢社会にある日本は今後、人口も減少し、経済も縮小していく。人々の幸せな人生を担保しつつ、未来をつくる発想も従来の考え方では通用しなくなることも予想される。
 
「日本は産業的にも社会的にもかなり成熟しています。その中で、どうすれば次の時代に合った社会に移行できるかが大きな課題になっていると思う。一人ひとりがその課題に向き合うとき、私自身がフィンランドで生活、研究してきた経験や考え方を伝え、参考にしてもらうことはできると思います。日本人はフィンランド人にはない緻密な思考力もあり、伸びしろはまだまだあります。学生たちとの研究を通じて、次の社会にアップデートする道を探りたい」




Focus
気負わず挑戦を続けたい





フィンランドとの出会いは大学1年生のとき。夏休みに友人を訪ねて2週間滞在したのがきっかけだった。「当時の日本では英語を話す人を変に特別視する雰囲気があった。そんな中、地方都市の高校生でも普通に英語で会話する姿に接し、すっかり気に入ってしまったんです」と話す。
 
持ち前の行動力を発揮し、帰国直後から北欧政治史が専門の恩師の門をたたき勉強をスタート。フィンランド語も学び、政党政治や社会制度を研究してきた。大学院修了後には縁あってフィンランドのデザイン会社Golla Oyに勤務。ヘルシンキで暮らしながら、セールス&マーケティング部門の副社長も務めた。
 
現地での生活で印象的だったのは、フィンランドの人たちが日常生活の中で、気軽に新しい挑戦をしていることだ。「余暇や自分の時間を大切にしつつ、どうすれば人生が充実するかを考えて行動している。仕事でも常にベストパフォーマンスを出す方法を工夫しています。その姿勢にこそ、幸福度世界一のヒントがあるのかもしれない」と語る。
 
「チャレンジを通じて実践的に学ぶ姿勢は、これからも見習いたいと思っています。昨年4月の着任からまだ1年弱ですが、学生から私が学んでいることもたくさんあります。学生と一緒に、私自身も挑戦を続けたい」

 
(写真上)シンプルでおしゃれなフィンランドのオフィス。図書館をリノベーションしたコンサルティング会社の風景。
(写真中)柴山講師の前職、Golla Oyのオフィス
(写真下)ゼミでは学生と柴山講師(右から2人目)が和気あいあいと意見を交わしている

しばやま・ゆりこ
1983年神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学研究科博士後期課程を満期退学。2007 年からGollaOyに勤務し、Vice President of Sales&Marketingなどを務める。18年4月より現職。専門は比較政治学、フィンランド・北欧の地域研究。

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