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特集

2017/05/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

波の力をシンプルに活用

エネルギー問題の解決へ
海洋学部環境社会学科 田中博通 教授

私たちの生活に欠かせない電気だが、日本は石油や天然ガスといった発電に必要な資源の自給率がわずか6%。東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所の事故もあり、エネルギー問題は深刻だ。その解決策として、波の力を利用した発電について研究する海洋学部環境社会学科の田中博通教授を訪ねた。

「波力発電といっても、海面の上下動による空気の振動を利用した『振動水柱型』や、水面近くに浮かべた物体が波によって動かされることをエネルギーにした『点吸収型』など、さまざまな方式がある」

その中でも田中教授が10年前から研究を進めてきたのが「越波型波力発電方式」だ。沖合から押し寄せてくる波が沿岸に設置された傾斜板に打ち上がると、大量の海水が上部に作られた貯水層に勢いよく流れ込む。その中央底に開けられた穴からパイプを通して海底に戻る際に、パイプ内に設置されたプロペラが回転し、電気が発生する仕組みだ。

田中教授がこの方式に着目したのは、発電以外にも大きなメリットがあるからこそ。「岸壁で波を受け止めることで消波の効果もあります。さらに、酸素を多く含んだ海面付近の水を海底に送ることで、豊かな栄養を循環させることができ、養殖場など湾内の水質改善にも役立ちます。まさに“一石三鳥”の発電方式です」

全国でも数少ない臨海実験場が研究の源
越波型波力式発電方式の発電量は、越波量やプロペラの枚数によって大きく変わるという。そこで大小・長短の波が互いに重なり合って生まれる「不規則波」を再現できる海洋学部臨海実験場で試行錯誤を重ねてきた。海で発生するものと同じ波を再現できるため、発電機を微調整しながら、発電効率の差を細かく割り出せるという。

さらに、2012年には新エネルギー・産業技術総合開発機構から助成を受け、全国の波高と周期データから年間の波エネルギーを見積もり、発電量を算出した。

研究開発で得られた総合発電効率を15%とすると、日本有数の高波高が観測される山形県・酒田で6940kWh、静岡県の御前崎では4843kWh(いずれも1メートルあたり)。「再生可能エネルギーとして広く普及している太陽光発電の年間発電量は、標準として100kW/平方メートル。つまり、酒田では約70倍の発電量が予測されます。ちなみに、清水でもおよそ15倍は期待できます」。波力発電は、日照時間に関係なく、夜でも発電できることが大きな要因だという。

実用化に向けて研究推進 シンプルな構造を生かす

再生エネルギー開発に力を注ぐスコットランドやデンマークでは、さまざまな方式の波力発電が実用化されている。日本で導入が遅れているのは、「装置自体が複雑で、コストがかかりすぎるから」と田中教授。

「海では貝などが付着するし、大きな漂流物が飛んでくる可能性も高い。だからこそ、単純な構造でメンテナンスが簡単にできなければいけません」。越波型波力発電方式は、上記の図のように非常にシンプルだ。

「発電効率も消波力も実用化には十分な成果が出せています。日本の海沿いには多くの漁村が点在しており、各漁村に発電装置を整備できれば、1村程度の電力なら容易にまかなえます。まずは漁村で成果を出し、日本のエネルギー問題解決の糸口にしたい」


focus
多くの知識に触れよう
発送の種は生活のすべてに



田中教授の研究室にはさまざまなジャンルの本が所狭しと並んでいる。「小さなころから読書が好きでした。哲学書もたくさん読んできましたよ」。そう話す姿は、研究について話すとき同様、楽しげだ。

「哲学にはギリシャ哲学から現代の実存哲学までさまざまな概念がありますが、どれも時間・空間・物質だけでなく、いかに生きるべきかといった本質的な問いかけがあります」と目を輝かせる。今までに読んだ本の思い出を聞くと、「いけない、いけない。今日は研究の取材でしたね。学生と話していても、いつも脱線してしまうんです」と笑顔の田中教授。

「でも私は、生活のすべてが成果につながると思っています。研究に関係のない本を読み、たくさんの話を聞く中にこそ新たな発想が眠っています。専門である土木の世界でも、多様な人々の生活や考えを理解していないと必要なものは作れませんからね」

そう語る田中教授のもとに、履修相談で一人の学生が訪ねてきた。親身にアドバイスを送る表情もまた明るい。学生も疑問が解決でき、笑顔で研究室を出ていった。

「学生は授業の内容だけでなく、いろんなことを相談に来てくれますよ。わからないことを聞きに来る姿勢は素晴らしい。多くの人からアドバイスをもらいながら自分の知識を広げてほしい。それが、自分の思想や哲学を持つことにもつながります」

研究室に来る学生によく聞かせる話があるという。「多くの本を読み、大学でたくさんの経験を積んでおきなさい。それが自分の財産になり、卒業後も活躍する武器になります。社会に出てからもがむしゃらに働き、稼いで、困っている人の力になってほしい」

 
たなか・ひろみち 1952年長野県生まれ。東北大学大学院工学研究科土木工学専攻博士課程後期修了。国立八戸工業高等専門学校で教授を務め、95年から海洋学部助教授に着任。99年から教授。2005年よりNPO法人「海辺を考える しおさい21」の理事長を務める。

(写真)海洋学部臨海実験場の様子

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