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特集

2014/05/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

子どもの生活習慣を変える

自由な遊びが最高の運動
楽しみながら体をつくろう

体育学部生涯スポーツ学科 知念嘉史 准教授

2020年の東京オリンピック開催が決まり、2月には政府が「スポーツ庁」設置に向けて準備を始めるなど、「スポーツ立国ニッポン」の機運が高まっている。だが、体育学部生涯スポーツ学科の知念嘉史准教授は、「若者の運動能力は確実に低下していて、日常生活に支障が出るほど危険な状態になっている人も増えている」と警鐘を鳴らす。実態はどうなっているのだろう? 知念准教授を訪ねた。

東海大学で毎年春に行われている新入生対象の体力測定。知念准教授は、「多くの学生の動きが明らかにぎこちなくなっている」と話す。50㍍走で転んで受け身がとれなかったり、ボールをうまく投げられなかったりする学生が年々増加。運動が得意なはずのアスリートでも、全体的な運動能力が低下しているという。
 
「特定の競技に関する能力は高いものの、それ以外の動きはからきしダメという選手が増えている。若者の平均的な筋力が落ち、運動能力全体のバランスも崩れていることが表れています。ほかにも、体重を支えられず、一つの姿勢を長く保てない学生も増えている」
 
知念准教授はその背景に、「幼児期の過ごし方がある」と分析する。研究では、神奈川県内の幼稚園と協力して園児が自由に遊ぶ様子をビデオカメラで記録。運動能力を高めるとされている36の動き=表参照=に分類して、園児がどの動きを何秒しているかを計測している。その結果を体力測定や生活習慣の調査データと組み合わせ、子どもの運動能力の向上と日常生活の関係を明らかにしようと試みている。

限られた運動が子どもの能力を奪う

これまでの研究で、園児が自由に遊んでいる時間が短い傾向があることが判明。カリキュラムに運動を取り入れている場合でも、跳び箱や鉄棒など特定の動きに限定されがちであることがわかってきた。
 
「元来子どもは、遊びの中でさまざまな動きを習得していたのですが、その時間が減ったため基本的な運動能力が育っていない。そんな子どもが成功と失敗が明確な跳び箱をやってもうまくできず、運動嫌いになってしまう。そしてますます動かなくなるという悪循環が生まれているのです」

短時間の自由時間で生活が一変する
その対策として「遊びたくなる環境をつくろう」とアドバイス。一昨年には幼稚園に、ビールケースで作った上り下りできる階段や、天井から垂らしたロープにぶら下がるだけの簡単な手づくり遊具を設置。朝一番に「遊びの時間」を設けて自由に遊べるようにしたところ、園児の運動能力に改善が見られたという。それまではぼうっとしがちだった子どもも積極的になり、就寝時間も早くなるなど生活習慣が改善する効果も出ている。
 
昨年度からは、熊本市の付属かもめ幼稚園とも連携。園児の睡眠時間や一日の過ごし方を調査し、1月には保護者と教員を対象に体を動かして遊ぶとともに、生活を整えることの重要性について講演もした。
 
では大学生や大人はもう手遅れなのだろうか?「運動というと競技スポーツを思い浮かべがちですが、運動能力をバランスよく鍛えるためには、鬼ごっこやキャッチボールなど、簡単で楽しく体を動かせる遊びでも十分な効果があることがわかってきています。それは大学生や大人でも同じ。難しく考えず、いろいろなスポーツや遊びを楽しんでください。楽しむことで少しずつ本気になり、体も心も健康になると思います」

(写真)知念准教授は「近隣の子どもたちに遊びの機会をつくろう」と、学生たちと毎月1回程度湘南校舎でイベントを行っている。毎回、前半を自由な遊びの時間にあて、後半は学生が考えたゲームを行う




focus
やりたいことをやりたいだけやろう



「運動は楽しくなければ続かない」が持論。「生活が便利になって、ほとんど体を動かさなくても日常を過ごせる時代。だからこそ、楽しむ要素が必要になっているんだと思います」
 
中学、高校とハンドボールに打ち込み、高校3年時には国民体育大会で優勝も経験した。「大学では競技とは違う観点からスポーツとかかわりたい」と、体育学部社会体育学科(現・生涯スポーツ学科)に入学。レクリエーションとしてのスポーツを専門的に学びながら、学生サークル「野外教育研究会」でキャンプやスキーに挑戦しつつ、子ども向けイベントを企画・運営してきた。その中で、運動には人を明るくしたり、仲間づくりができたりと、さまざまな効果があると感じてきた。
 
「やりたいことをやりたいだけやろう」とも思っている。最近はゴルフも始め、ときには自転車で自宅から湘南校舎まで片道30㌔を往復する。夢は、アメリカ・カリフォルニア州にある約300㌔の自然散策路「ジョン・ミューア・トレイル」を歩くことだ。「世の中には楽しいことがまだまだたくさんある。これからも、いろいろなことに挑戦していきたい」
 
 
ちねん・よしふみ
1969年沖縄県生まれ。東海大学大学院体育学研究科体育学専攻修士課程修了。東海大学付属本田記念幼稚園勤務などを経て2005年より現職。「夏季野外活動理論演習」「幼児と遊び演習」などを担当。専門は幼児体育・野外教育。

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