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特集

2016/03/01
研究室おじゃまします!
各分野の最先端で活躍する東海大学の先生方の研究内容をはじめ、研究者の道を志したきっかけや私生活まで、その素顔を紹介します。

「安心安全なロボット」の実現

自分で故障を見つけ修理する!?

勝手に部屋を掃除してくれたり、病気やけがの際に歩行をサポートしてくれたり、自動で走行する車も開発が進むなど、ロボットは私たちの暮らしに欠かせない身近な存在になってきている。ただし、それら便利な道具も故障など一歩間違えると人間にとって危険な存在になってしまうことも……。安心安全なロボットとの共生に向けて研究を進める基盤工学部電気電子情報工学科の高橋将徳教授を訪ねた。

「人間が安心してロボットと暮らせる社会を考えたとき、大切なのはその“健康”です。ロボットの状態を自ら把握し、故障や不具合を見つけ、自分で修理する――“故障に強いロボット”の開発に取り組んでいます」

高橋教授の研究室では、ロボットが故障のあるなしを自動で検知し、自らパーツを交換するシステムの研究開発に取り組んできた。「交換するパーツを効率よく搭載できるよう、3脚型のロボットを開発しました。通常は2脚で歩行し、残りの1脚は頭の部分にしまっておく。歩行中に1脚が壊れて動かなくなったら、自動的に残りの1脚を使う仕組みです」

2007年に開発したこのロボットは「T―LEGS」と名づけられ、当初は2脚1腕で、腕のパーツが作業を担う役割だった。その後、研究室に所属する学生のアイデアで3本のアームをすべて腕と脚のどちらでも使えるようにするなど改良を加えてきたという。

「その結果、側転しながら階段を上ったり、ほふく前進したりと複雑な動きが可能になるなど、故障対策から用途が発展していっています」と高橋教授。2年前からは自然科学研究機構核融合科学研究所と連携し、T―LEGSを核融合炉の炉壁検査に使うための研究に取り組んでいる。

「核融合炉の中には人間は入れないので、故障して動けなくなったら回収は不可能。そこで、自己修復して脱出できるT―LEGSが活用できないかと考えています。複雑な形状の壁面を登れるよう、軽量化や垂直移動用のアタッチメント開発などを進めています」

ソフトで故障を検知ロボが自分で進化?

活躍の場が広がりそうなT―LEGSだが、「ロボットが自分で故障を把握する」とは、どのような仕組みなのだろうか?

高橋教授は、「そもそも私の専門は制御工学。機械の制御には、機械の状態をセンサーで見ながらそれを次の操作に反映させるフィードバック制御という方法があります。T―LEGSではこの技術を応用して、“修理”するシステムを動かそうと考えています」と説明する。

フィードバック制御システムは、制御器から発信した信号が脚のモーターや角度センサーなどの部品を通過して制御器に戻るように構成される。現在開発しているシステムでは、そのループの中に組み込んだ検知フィルターで異常を察知するのだという=図参照。

「正常に動いていれば信号は安定的に推移しますが、どこかが動かなくなればその信号の動きが異常な“ふるまい”を見せます。これにより、フィードバックループに流れる信号の真贋を確かめられます。一連の仕組みをロボットが動くメカニズムの中にソフトウエアで組めば、どこが故障したのか正確に把握し、機体にフィードバックできます」

今後はこの理論の数学的証明を進めると同時に、ロボットに実装することが目標だ。

「将来は故障を修理するだけでなく、自分で使われている環境に適応する『進化型ロボット』につなげたい。ロボットがどこまで人間に近づけるのか、とても興味深い」

勝手に故障個所を修理し、効果的に作業を続けるロボットが身の回りにある――そんな未来も遠くないのかもしれない。



focus
好奇心を研究開発に生かす
世界観を広げて新しい発想を


「無機質なモノが自分のイメージしたとおりに、まるで生き物のように動く。『なんだこれは!』と驚いた最初の興奮は忘れられません」。理論実証といったソフト面からハード開発まで手がける高橋教授。ロボットとの出会いは中学生のころだった。

「工業高校の教員としてロボットについて教えていた父に連れられて、自分もプログラミングの手伝いをしたのですが、そのとき初めて簡単なロボットに動作を打ち込んで動かしました。その体験がこの道に進むきっかけになりました」

ロボット研究を続ける中で大切なのは「好奇心」だと言う。それは、研究室の学生たちの意見を柔軟に取り入れる姿勢にも現れる。ある学生が「3脚ロボをスケートボードに乗せたら面白い」と言えば、実際に乗せて走るまでともに作り上げる。

「最初は遊び半分でも、スケボーで移動すれば省エネにつながるといったように発展性を持ちます。大人は先にリスクを考えネガティブになりがちですが、“できるかもしれない”と一緒になって考えるほうが楽しい。学生たちには多くの経験を積み、世界観を広げて新しい発想につなげてほしいですね」

 
たかはし・まさのり
1969年大分県生まれ。熊本大学工学部卒業。同大学院自然科学研究科博士課程単位取得退学。博士(工学)。国立有明工業高等専門学校で教鞭をとるかたわら、2000年に文部省在外研究員としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校に留学。06年に九州東海大学工学部(当時)に着任。14年度より現職。

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