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特集

2020/10/01
教育の現場から
話題の授業や地域・企業と連携した課外活動など、東海大学の特色ある教育現場に迫ります。

学際型融合研究が始動

【文明研究所】アンデスの「音」に迫る

文明研究所がマイクロ・ナノ研究開発センターをはじめ、東京大学や岡山県立大学、BIZEN中南米美術館(岡山県備前市)と協力し、南米で独自に栄えたアンデス文明の「楽器」を多角的に分析する学際型共同研究プロジェクトが今年度から始まった。9月24日からは、特別展示会「ボトルビルダーズ―古代アンデス、壺中のラビリンス」も東京大学総合研究博物館小石川分館で開催。文理融合研究が新たな展開を迎えている。

8月に東京大学で行われた音声収録実験

この共同研究は、音の鳴る土器に焦点を当て、歴史学や考古学、物理学、工芸など多角的な視点から文字を持たなかったアンデスの人々の生活を掘り起こす、世界にも例のない試み。文明研ではこれまで、「東海大学所蔵文化財の活用のための基盤整備」プロジェクトを展開しており、資料の整理や写真撮影など公開に向けた準備を行いつつ、工学部やマイクロ・ナノ研究開発センター、株式会社ニコンなどと連携し、東海大所蔵のアンデス・コレクションを活用した文理融合研究を進めてきた。昨年度には、東大総合研究博物館助教の鶴見英成氏や岡山県立大准教授の真世土マウ氏らと研究会を開いて他大学との連携も深めており、今回の共同研究もこれまでの成果を発展させる形で展開される。

研究プロジェクト副代表の吉田晃章准教授(文学部)は、「光学機器を使うと、内部構造や土の特徴、修復痕など外見でわからない多くの情報が得られる。そこに多角的な視点から考察を加え、アンデスの人々の世界観に迫りたい」と語る。8月23日には、東大総合研究博物館小石川分館(東京都文京区)で、土器の音色を収録する実験を実施。鶴見氏と研究プロジェクト代表の山花京子准教授(文化社会学部)、喜多理王教授(マイクロ・ナノ研究開発センター)と研究室の学生・大学院生ら約10人が参加し、東海大などが所蔵する土器や真世土氏が作成したレプリカ17点に空気と水を送った際に出る音を採録した。

X線CTを使った画像撮影

今後は、東海大で撮影したX線CT画像も活用しながら年代ごとの特徴などを考察し、音をシミュレーションする分析用アルゴリズムの開発も進める。犬山尚樹さん(理学部4年)は、「現代の視点で見ると意味がわからないものもあるが、そこには必ず理由があったはず。物理学の力でその謎をできるだけ解明したい」と意気込む。南原直紀さん(大学院理学研究科1年)も、「多彩な分野の専門家の叡智を吸収し、新たな発見に貢献したい」と語る。

文明研では8月から9月にかけて、さまざまな年代・形状の土器約50点のX線CT画像の撮影も実施。保存状態を科学の目で確認するとともに、今後の研究資料として活用する予定だ。

山花准教授と喜多教授は、「専門の違う研究者同士の連携は手探りの状態だが、未知の領域を切り拓くのはなにより面白い。今後も互いの強みを生かし、アンデス文明の謎を一つひとつ明らかにしていきたい」と話している。

 

【9月24日~】最新の成果に触れる ボトルビルダーズ展

「ボトルビルダーズ展」が、9月24日から11月29日まで東京・文京区の東京大学総合研究博物館小石川分館で開催されている。東大、岡山県立大、BIZEN中南米美術館と東海大が展開する、古代アンデスの笛吹ボトルに関する共同研究の成果を紹介するもの。

東海大所蔵の4点を含む19点の笛吹ボトルのほか、東海大で撮影した土器のX線CT画像や3Dプリンターなどを使って作製したレプリカ、ボトル内に空気を送って採録した音なども紹介される。

午前10時から午後4時30分まで開館。(月・火・水曜日は休館。祝日の場合は開館)。入場無料。問い合わせは、ハローダイヤル050-5541-8600まで。

 

【企画展「俳優緒形拳とその時代」】
戦後大衆文化史を振り返る 学生が史料整理や展示に参加

10月3日から開催される企画展のポスター

10月3日から12月6日まで横浜市歴史博物館で、企画展「俳優緒形拳とその時代―戦後大衆文化史の軌跡―」が開催される。東海大学と同館が主催する企画展で、教育開発研究センターの馬場弘臣教授(文明研究所)と学生らが長年にわたって資料を整理し、準備してきた。「2000年に小田原市立図書館から、劇作家・北條秀司の蔵書を整理してほしいと依頼されたことに始まります。01年から3年かけて整理し、神奈川県ゆかりの作家の史料として東海大の付属図書館に寄託されることになりました」と馬場教授。「緒形さんは北條秀司の紹介で劇団新国劇に入団するなどつながりが深く、北條秀司に関する展示会のトークショーに出ていただいたこともありました。そのときに私が司会を務めた縁で交流ができ、緒形さんが亡くなってから約8年が過ぎた16年、ご子息から“資料の整理を手伝ってほしい”と依頼されました」 

1958年に劇団新国劇に入団以来、2008年に亡くなるまで、舞台やテレビ、映画など幅広く活躍した緒形の足跡をたどることで、戦後日本の大衆文化史を読み解くことができるのではないか――馬場教授らは17年に文明研究所のプロジェクトとして「戦後大衆文化の基礎的研究―緒形拳氏関係資料の整理をめぐって―」を立ち上げ、翌年には「緒形拳研究会」を設立。「史料管理学演習」の授業を履修する学生も会員として加わり、資料整理に着手した。


膨大な史料を整理・展示 演じる人々にエールを

膨大な史料を整理する学生たち(2018年7月

撮影)

4000冊にものぼる蔵書と出演作品の目録作りのほか、全国の新聞や雑誌の切り抜きを年代別に並べて綴じ直したり、284冊もの出演作の台本とパンフレット、デビュー当時からの写真も年代別にまとめたりと、作業は多岐にわたった。

3年間の集大成として、19年10月には付属図書館展示室で企画展「軌跡―名優緒形拳とその時代―」を開催した。馬場教授は、「膨大な資料を読み解くことで、俳優・緒形拳を通して戦後日本の歩みや文化、メディアの発達など時代の変化を見ることができました。展示は学生が中心となって行い、資料整理から展示までの流れを学ぶ、貴重な経験になったと感じています」と語る。

より多くの人に見てもらおうとクラウドファンディングで資金を募り、今回の企画展につなげた。同展は10年単位で軌跡を振り返る5部構成のほか、12の特設コーナーや映像コーナーを設け、300点以上の資料を展示。関連イベントも多数予定されている。「新型コロナウイルスの感染拡大は、“演じる”“観る”文化にも甚大な影響を与えています。戦後大衆文化史を振り返る本展が、新たな指針を探る契機となり、そういった人々へのエールとなればうれしい」と馬場教授は話している。

 

【10月3日~】「俳優緒形拳とその時代―戦後大衆文化史の軌跡―」

【会期】10月3日(土)~12月6日(日)
【会場】横浜市歴史博物館(横浜市都筑区中川中央1-18-1)
【休館日】月曜日(11月23日を除く)、11月24日(火)
【開館時間】午前9時~午後4時30分(券売は4時まで)
【観覧料】一般500円、高校・大学生300円ほか
【関連イベント】
▼講演会「大河ドラマと時代考証─緒形拳主演『峠の群像』を素材に─」(仮題)
11月7日(土) 午後2時~3時30分
講師:大石学氏(東京学芸大学名誉教授) 会場:講堂
▼関連講座「俳優緒形拳とその時代―戦後大衆文化史の軌跡―」(仮題)
12月5日(土) 午後2時~3時30分
講師:馬場弘臣教授 会場:講堂
▼トークショー「緒形拳の作品とその魅力」(仮題)
11月21日(土) 午後(時間未定)
豊川悦司氏(俳優)、貴島誠一郎氏(プロデューサー) 会場:講堂
※すべて資料代500円、定員60人(事前申し込み)。詳細は同館ホームページを参照
▼展示監修者・馬場教授による展示解説
10月10日(土)、25日(日)、11月8日(日)、22日(日)
午後2時~40分程度
※参加費無料。5分前までに講堂前に集合

 

 

 

【所長に聞く】

人文学活性化を目指し 共同研究や情報発信を推進

文明研究所 山本和重所長(文学部教授)

文明研究所は学内の幅広い分野から研究者が集まり、過去の文明や現代文明が抱える課題、これからの文明のあり方を総合的に研究する機関です。今年度は6人の所員を中心に、学外所属者を含む26人の研究員で構成。コア・プロジェクトとして掲げる「人文学の方法論に関する総合的研究」と「東海大学所蔵文化財の活用のための基盤整備」を展開するとともに、所員による個別プロジェクトに取り組んでいます。

特に本学が所蔵する文化財活用の取り組みでは、「アンデス・コレクション」の活用に向けた環境整備や資料保存が一定の成果を上げています。また、個別プロジェクトである「戦後大衆文化の基礎的研究」では、俳優・緒形拳氏に関する資料の整理も着実に進んでいるところです。

今回、この二つの活動が新しい局面を迎え、学外との共同研究や企画展の形で成果を示すことになりました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、研究会や展示会の開催が困難な中でも、本学が所蔵・保管する資料を生かすとともに、学外とも連携した活動を実現できたのは、多様な分野の研究者が協働する場として本研究所が組織的に機能できた結果であるといえるでしょう。

今後も本研究所が掲げる「人文学の活性化」という大きな目標に向かって、さまざまな形で情報発信を続けていきたいと考えています。

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