研究
2022/09/01女性の漁業への認識を高め、参画を促す――海洋学部水産学科の李銀姫准教授がコーディネーターを務める「漁する女子ジャパン」プログラムが、8月20日に静岡県東伊豆町の稲取漁港で開催された。漁師だけでなく、さまざまな角度から漁業に携わる女性の声を聞く多彩な企画を展開。ジェンダー問題解決や地域活性化を目指す取り組みを追った。
「漁業は海に出て魚を捕る男性の仕事というイメージが強く、漁船が帰港した後の陸上では多くの女性が活躍していますが、必ずしも”見えて”いるわけではありません。彼女たちの仕事にスポットライトを当てることでジェンダーへの意識が高まり、女性の声もさまざまな政策に反映されると考えています。この部分は、海に出て漁をする女性漁師を増やすことと同様に重要」と李准教授は活動の狙いを語る。
昨年10月にスタートした「漁する女子ジャパン」は、カナダ・ニューファンドランド地域で実施されている「漁する女子カナダ」の姉妹プログラムで、日本の小規模漁業・沿岸漁業の研究ネットワーク「TBTI Japan」や清水漁業協同組合用宗支所、静岡県水産・海洋局などの関連機関と連携し、月1回程度、静岡市の用宗漁港で開いてきた。国内外の漁業関係者によるオンラインや対面での講話や体験乗船などを行い、参加者からは「生の声を聞けるのは貴重な機会で毎回楽しみ」との声が聞かれる。
歴史や特産品を学び新たな魅力を知る
メーン会場の用宗漁港の特産品はしらす。一方の稲取漁港は商標登録もされている「稲取キンメ」やイセエビ漁が盛んだ。「水産県・静岡の漁業を幅広く知ってほしい」と今回初めて稲取漁港を会場に設定。共同コーディネーターを務める水産学科の平塚聖一教授や海洋学部生も運営に協力し、子どもから大人まで約20人の女性が参加した。
初めに東伊豆町の岩井茂樹町長があいさつし、「東伊豆は山と海が比較的近く、素晴らしい風景が広がっています。今日はさまざまなプログラムが用意されていますので、稲取の一次産業である水産業を楽しんでください」と語りかけた。その後は伊豆漁業協同組合稲取支所運営委員長の鈴木精氏が稲取漁港の歴史や特産品などを解説。キンメダイ漁船を使ったクルージングを提供する「稲荷丸」の内山綾子氏や、「伊豆稲取キンメマラソン」実行委員長の西塚良恵氏が女性の活躍する姿や思いを紹介したほか、「稲取漁港直売所 こらっしぇ」も見学した。
参加者は、「これまで下田に向かうときに通り過ぎる場所だったのですが、今回あらためてアットホームで温かい稲取の魅力を知ることができました。さまざまな切り口から漁に関する企画を提供してもらい、とても勉強になりました」と話していた。
漁する女子ジャパンin稲取
【鮮度が命の「稲取キンメ」】
最初の講義を担当した伊豆漁業協同組合の鈴木氏は、稲取漁港で行われてきたマグロ漁や天草漁の歴史を説明するとともに、「稲取キンメは『立縄釣り』(一本釣り)で、漁船は夜中に出て夕方には帰ってくる。水揚げ後はすぐに漁協職員が選別して出荷するから鮮度が高い」と特長を解説。新鮮なほど銀色に輝くことから昔は「ギンデェ」と呼ばれていたことや、イルカ等による食害の被害なども紹介した。
【漁船クルージングを体験】
稲荷丸の内山氏は漁業以外の仕事と両立してきた経験や、イセエビの刺網漁に携わる女性の話、漁協婦人部の活動、漁師の夫と息子と協力してクルージングを提供するまでの苦労などを語った。実際のクルージングでは、天城山の天狗が漁場を巡る争いを収めたといわれる「はさみ石」の間近を通り、海上の安全を祈る神事も体験。内山氏は、「皆さんの笑顔を見られたことが励みになります」と話した。
【手作りの漁具に興味津々】
漁師の岩瀬清敏氏は、イセエビ漁に使う刺網や、キンメダイ漁の立縄の実物を見せながら説明した。立縄はナイロンの糸に針をくくりつけた自作で、「最近は安くて使い捨てできる中国産がはやっていますが、針の感触や海の中でのしなやかな動きなどは手作りにはかなわない。大きくていいキンメが捕れる」と力説。参加者は実際に触らせてもらいながら、興味津々で聞き入っていた。
【キンメマラソンで地元に恩返し】
高低差約250メートル、山から海へ駆け下る「世界一楽しい地獄」キンメマラソンは、西塚氏らが2016年に立ち上げた。給水所では果物や野菜などの特産品も振る舞う。西塚氏は、「育った町に少しでも恩返しができればと考えて取り組んできました。“女に何ができる”と言われたこともあるけれど、情熱を持ってあきらめなければどんなことでもできる」と熱弁をふるった。
海洋学部水産学科 李銀姫 准教授
漁村の過疎化や高齢化、後継者不足などさまざまな問題を抱える中、魚などの資源や利益は減り、コストばかりが増えていく。漁家所得をいかに上げていくかが今後の漁業の大きな課題です。
そんな中でカギになるのが「海業(うみぎょう)」。魚だけに頼るのではなく、景観なども含めた地域の資源を生かしていく考え方です。稲取では、漁船クルージングや「こらっしぇ」をはじめ、水産祭などさまざまな取り組みが行われています。大企業が入るのではなく、漁業者を中心とする地域住民が主体となって収益が地域に残る形をつくることが大切です。そうすることで漁家を維持し、小規模漁業・漁村の持続可能性を高めることができます。
「漁業への参画」と一言に言っても、漁業そのものに入っていくことだけを指すわけではありません。確かに、漁をする女性は1割程度で、漁船にはトイレがなく、漁具は男性用の重いものしかないといったジェンダーギャップは重要な課題であり、漁する女子ジャパンが改善を図りたい分野の一つでもありますが、競り場での仕分けや網の手入れ、イベントや漁船クルージングのような新しい取り組みでは多くの女性が活躍しています。
参加者には、自分の仕事をしながらでも漁村や地域を応援する思いを持ってほしいと話しています。今は研究者側が主導していますが、ゆくゆくは漁業者サイドが地域活性化の一環として取り組み、多くの漁港に広がっていってほしいと考えています。
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