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コラム

2016/04/01
何度も読み返した小説やマンガ、学生時代に読み込んだ教科書、人生を変えた一冊など、東海大学の先生方が大切にしている本を紹介します。

『子どものからだとことば』


「からだ」は語る
健康科学部社会福祉学科 竹之内章代 講師



高校時代、演劇部に所属していたときに出会ったのが竹内敏晴氏の『劇へ――からだのバイエル』でした。高校生活を部活一色にしていた時期に読んで、自分の体と向き合うこと、感情と向き合うことを考えさせられました。

そんな体験があって、福祉系の大学に進んだとき、同じ著者の『子どものからだとことば』という本に出会いました。児童福祉学科に身を置き、自閉症といわれる子どもたちの支援に興味を持っていたころのことです。

その本の中に「体が語る」という項がありました。自閉的な言語障がい児を見てある人が言った“他人に話しかける意欲を持っていない”との意見に竹内氏は反論します。「自閉的なお子さんは、内にあついものを秘めている。決して人を求めていないわけではない」と。さらに竹内氏は、それから3日くらい経ってから気づくのです。子どもは話しかける意欲を持っていないのではなく、“あの人はこわい”“あの人とはしゃべりたくない”という思いを、「話さない」という表現方法で伝えていることに。

そしてそれを“他人に話しかける意欲がない”と判断してしまう「教育者あるいは支援者の思い上がり」にです。

その言葉に「ハッ」としました。「ものを言わないけれど、子どもたちから見る世界はこうなんだ」と。人は発する言葉だけでなく、体で雄弁に気持ちや内面を語っている。そして、ある意味、言葉は嘘をつくけれど、体は嘘をつけないということに気づかされたのです。

学生だった私は、こうした視点で福祉サービスの利用者と向き合うようになりました。利用者の目線で言葉をかけ、その人の思いに近づこうとした。そして少しずつ、視線を合わせようとしなかった子どもたちの笑顔に出会うことができるようになったのです。この体験が、今も私の仕事の原動力になっています。

これからも、社会福祉士として、あるいは若い学生を社会福祉専門職に育てる教員として、福祉サービスの利用者や学生たちの「からだとことば」の語りを真摯に受け止め、日々向き合っていきたいと思っています。

『子どものからだとことば』
竹内敏晴著
晶文社

 
たけのうち・あきよ
茨城県生まれ。日本社会事業大学社会福祉学科卒業、同大学院社会福祉学研究科修了。専門は、障がいがある子どもの療育支援とそのシステム評価。

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