Column:ニュースの扉
2020年11月1日号
Q.新政権注目の政策 「デジタル庁」って何をするの?
A.マイナンバーカードを普及させ、行政手続きを迅速にする政治経済学部政治学科 小林 隆 教授
コロナ禍の日本では、各種行政手続きのオンライン申請で想定外のトラブルが続出しました。国民一人あたりに一律10万円を給付する「特別定額給付金」をめぐっても不満が相次いだことを覚えている人も多いでしょう。
菅義偉首相は9月16日に開かれた就任後初の記者会見で、「国民が役所に行かなくても、あらゆる行政手続きが迅速に可能になる社会を目指し、『デジタル庁』を新設する」と明言しました。同庁設立には、国と自治体のシステム標準化やスマートフォンを使った行政手続き、オンライン診療やデジタル教育に関する規制緩和なども期待されています。
しかし、これらの実現には、手続きに必要となる国民番号制度「マイナンバー」が不可欠です。マイナンバーカードは、希望者に対して、2016年に交付が開始されましたが、その普及率は現在も2割弱にとどまっています。
デジタル庁の「初仕事」はこのカードの普及を加速させることになるでしょう。そのためには、マイナンバーを国民生活に根づかせることが必要です。政府はすでに、今年9月に消費活性化策も兼ねてカードの保有者を対象にポイントを還元する制度「マイナポイント」を開始。来年3月には健康保険証としても利用できるようにするほか、運転免許証と一体化させる案も検討されています。デジタル庁が設立された折には、省庁の壁を乗り越え、さまざまな行政機能をデジタル化することに取り組むでしょう。そしてスマートフォンのアプリの開発にも着手するのではないでしょうか。
また、国民の多くが不安を感じているセキュリティー強化も重要な役割の一つです。ただ、さまざまな情報が氾濫するようになった現代では、行政だけで国民の情報を守ることは難しい。国民一人ひとりが「自身の情報を守る意識」を高める必要があるでしょう。将来は、民間企業が運営し、個人の行動履歴や財産、健康などの個人情報を管理し、運用するサービス「情報銀行」を活用するのも個人がプライバシーを守るための有効な手段となるでしょう。
平井卓也デジタル改革担当大臣は、「行政サービスのデジタル化には5年間はかかる」との見通しを述べています。デジタル庁が、さまざまな課題を乗り越えて、国民が安心して利用できる行政のシステムが整備され、誰もが安心して暮らせる社会が実現することを期待します。