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コラム

2020/07/01
政治、経済、国際関係、医療・福祉、スポーツ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルのニュースや話題の出来事を東海大学の先生方が解説します。

Q.新型コロナの感染拡大は経済にどんな影響を与えるの?

A.世界の経済成長率が戦後最大に落ち込む見通し
政治経済学部経済学科 竹内文英教授

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、経済指標の一つである日経平均株価が、2月の2万3000円台から3月19日には1万6000円台まで急落しました。株価は投資家が“日本の将来をどう見ているか”が反映されます。今回はコロナが急速に蔓延し、経済が長期間停滞するのではという悲観的な見方から「売り」が続きました。5月末に緊急事態宣言が解除され、経済活動再開への期待の表れから6月8日にはコロナ以前の水準までV字回復しましたが、実体経済も元に戻ったかというと、そうではありません。世界銀行は6月8日に、今年の世界全体の経済成長率がマイナス5.2%まで落ち込む見通しだと発表しました。これは第二次世界大戦以降最悪の数字で、1あたりの所得は3.6%縮小し、何百万人もが極度の貧困に陥るとの懸念を示しています。

アメリカの証券会社リーマン・ブラザーズの破綻に端を発した2008年から09年のリーマン・ショックは、金融システムが崩壊し、お金の巡りが悪くなったことで徐々に世界中の実体経済にも影響を及ぼしていきました。今回のケースではコロナによって一気に経済活動が冷え込み、短期間で株価が急落したという特徴はありますが、株価の下げ幅ではリーマン・ショックに及びません。問題なのは、実体経済との乖離が起きていること。これは過去に例のない状況です。

それに対し、政府はさまざまな緊急経済対策をとってきました。全国民に一律10万円を給付する「特別定額給付金」のほか、業績が悪化した中小企業などを対象とした「持続化給付金」や家賃補助など、その金額規模は日本の国内総生産(GDP)の18.6%に相当し、先進国の中で最も高い数字です。しかし、すべてにおいて迅速さに欠けるのが問題。日本は、アメリカのように失業率が1カ月で10ポイントも上がることはありませんが、非正規雇用者の雇い止めが多く、“今困っている人”をどう助けるかが喫緊の課題でしょう。

冬になればウイルスが再び蔓延し、外出自粛といった事態が起きる可能性は否めません。今回の経験から課題を明らかにして国民を財政的に支援するためのシステムをきちんとつくっておくことが大切だと考えます。

 

たけうち・ふみひで 1963年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。専門は国際的景気循環、国際貿易、国際金融。