コラム
2021/04/01A.個人の“生き方”を尊重する制度
法学部法律学科 永山茂樹 教授
このところ、国会や地方議会で「選択的夫婦別姓」の可否が議論されているという話題を耳にしている人も多いと思います。現在は、民法750条によって結婚する場合は夫と妻どちらかの名字を名乗る「夫婦同姓」が義務づけられています。これに対し、「選択的夫婦別姓制度」とは、婚姻関係にある夫婦が別々の名字を名乗ることを選択できる制度です。
間違えてはいけないのは、名乗る名字を「選択できる」制度であって、従来どおり同一の名字にしてもよいということ。どちらを選ぶのかは当事者が決めるべきだという考え方です。制度導入については定期的に世論調査が行われており、全体的に見ると賛成の割合が多いことがわかります。
この制度を導入するには民法を変える必要があり、1990年代からたびたび、法制審議会が改正案を提案しています。それでも変わらないのは、従来の同姓制度に愛着を持つ人の政治的発言力が強いからでしょう。
私たちは生きていくうえで、進学や就職などさまざまな選択をします。結婚相手や、どんな家庭を築くのかも当事者たちの自由であり、名字が選択できないのは不自然です。
別姓制度の導入に反対する人は、「名字がばらばらだと、家族としての一体感が損なわれてしまう」と言います。両親が別姓だと、子どもがどちらの名字を名乗るべきか迷い、親と違うといじめの原因になるのではないか、という心配もあるようです。しかし現在、日本以外のほとんどの国では結婚しても名字が変わらない、もしくは同姓・別姓を選択できますから、反対派の意見によると、日本以外の国々は家族が崩壊しているということになりますよね。でも、そんなことはあり得ません。
自分の名字を自分で選ぶ権利は、憲法13条「幸福追求の権利」にかかわります。名字に愛着を持つ人、旧姓で築いたキャリアを大切にしたい人、あまりこだわりのない人……それぞれの幸福と自由をできるだけ尊重すべきだ、というのが我々憲法研究者の共通理解です。
根本的な問題は夫婦の名字だけでなく、個人の生き方をどれだけ尊重するかという点です。たとえば同性同士の結婚は法的に認められていませんが、自治体によってはパートナーシップ制度を独自に設けています。この点では一人ひとりの“生き方”を認める社会に近づいていると感じられます。
最後に、学生の皆さんに知っておいてほしい歴史があります。日本は第二次世界大戦前、植民地として支配した朝鮮で、朝鮮民族の名字を日本風に改めさせました。これを創氏改名といいます。強制的に名前を変えられ、多くの人が傷ついたでしょう。私たちは、こうした歴史からものごとを学び、同じ過ちを繰り返さないよう気をつける必要があります。
ながやま・しげき 一橋大学大学院法学研究科退学。法学修士。2017年より現職。専門は憲法学。
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