コラム
2021/05/01A. クーデターを起こした国軍に対抗する少数民族武装勢力が協力しているため
教養学部国際学科 田辺圭一 准教授
昨年11月の総選挙で、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(National League for Democracy=NLD)が476議席のうち8割以上の議席数を獲得し単独政権を樹立しました。一方、国軍が支援する連邦団結発展党は議席数が1割にも満たず惨敗となりました。
危機感を持った国軍は、明確な証拠を提示せず「不正選挙が行われた」と主張してクーデターを起こし、議会開会日の2月1日にアウンサンスーチー国家顧問やNLD幹部を拘束して政権掌握を宣言しました。これに民主派の市民らがデモなどで抵抗し、4月23日時点で745人に上る犠牲者を出す事態となっています。政治・経済両面で実権を握ってきた国軍が、既得権益喪失を恐れたことが発端だと考えられています。
では、なぜここまで大規模なデモに発展したのでしょう。その背景には、市民と少数民族武装勢力との協力が挙げられます。
ミャンマーがイギリスの植民地となった1886年、イギリスはカレン族などの少数民族をキリスト教に改宗させて英語教育を施し、国民の約7割を占めるビルマ族を統治させていました。民族間で対立させ、一致団結した抵抗運動を阻止する分断統治政策です。1948年の独立を機にビルマ族が権力を握ると、それまでの少数民族に対する反感が弾圧へと駆り立てました。これに対して少数民族側も武装して抵抗を続け、ミャンマーでは民族紛争が今日まで繰り広げられてきたのです。
今回のクーデターをめぐっては、約20ある少数民族武装勢力のうちこれまでに10の武装勢力が抗議デモを支持することで一致し、国軍への対抗姿勢を鮮明にしています。武装勢力に身を投じ、国軍に抵抗する若者たちも現れています。
対抗措置として国軍は、東部地域を勢力圏とするカレン民族同盟の拠点に空爆を行うなど強硬策に出ています。NLDの議員らが国軍への対抗として組織した国民統一政府は、自治権拡大を打ち出して少数民族武装勢力との協力を進めており、国軍との対立がさらに深まると予想されます。クーデターに対する抵抗運動が拡大するにつれ、国軍による弾圧も強まることが懸念されます。
日本は長らくミャンマーへの最大の援助国でした。ミャンマーの改革努力の継続を支援するため、日本国民の税金によって供与された融資のうち3000億円近い債務免除に応じるなど、日本はミャンマーの民主化支援に深くかかわっています。中国やロシアがクーデターを支持する立場をとり、欧米は強く批判している中、NLDとミャンマー国軍の双方に深い関係を持つ日本は、まだ明確な立場を打ち出していません。民主主義や人権といった価値をめぐる世界秩序の変動の中で日本の立ち位置が問われていることを、今回のクーデターが浮き彫りにしたといえます。
たなべ・けいいち 早稲田大学政治経済学部卒業。コロンビア大学国際公共政策大学院修士課程修了。国連世界食糧計画ミャンマー事務所・ローマ本部等を経て18年度から現職。専門は平和構築など。
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