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コラム

2022/02/01
政治、経済、国際関係、医療・福祉、スポーツ、エンターテインメントなど、さまざまなジャンルのニュースや話題の出来事を東海大学の先生方が解説します。

Q.新型コロナウイルスの 変異株って何?

A. 遺伝情報のコピーミスなどで
感染力や病原性が変化したウイルス


医学部医学科基礎医学系分子生命科学 中川 草 講師

アメリカのジョンズホプキンス大学の発表によると、1月27日現在の世界の新型コロナウイルス感染者数は約3億6000万人。日本国内でも242万人をこえました。感染拡大の主な要因となっているのは、デルタ株やオミクロン株といった変異株です。

新型コロナウイルスは、感染した細胞内で遺伝情報を持つRNA(リボ核酸)をコピーして増殖します。新型コロナのRANは4種類の塩基という化学物質が1列に3万個並んだもので、コピーの際にそのどこかにミスが起きるとウイルスの性質が変化します。多くは欠陥品として淘汰されますが、ときに感染・伝播力が増加したり免疫から逃れたりする変異ウイルス(変異株)が生まれます。

コロナウイルスのコピーミスは100万回複製されると1回程度起きると推測されており、新型コロナも同程度と考えられます。人の体内では100万回以上複製されるので、感染者の体の中で複数の変異ウイルスが生じていることになります。3万の塩基の変異のパターンは4の3万乗という数なので、同じ変異株が各地で同時発生する可能性は、ほぼありません。しかし現在、同じ変異を共有した親子のような変異株が各地で報告されており、こうした変異がウイルスをより拡散しやすくさせる可能性があると指摘されています。

世界保健機関(WHO)は危険度が高いと考えられる変異株を、「懸念される変異株(VOC)」「注目すべき変異株(VOI)」「監視下の変異株(VUM)」に分けて警戒しています=図参照。第5波の主要因となったデルタ株、第6波を引き起こしているオミクロン株は、いずれもVOCに分類されています。

厚生労働省は1月13日、オミクロン株疑いのある新規患者数の割合について、12月中旬までは数%、1月2日の時点で46%、9日には84%と、デルタ株などからの置き換わりが急速に進んだことを報告しました。こうした置き換わりが発生するのは、感染や増殖により有利な変異を遂げた株のほうが広がりやすいためと考えられています。オミクロン株は感染時に細胞と結合するスパイクタンパク質に生じたアミノ酸変異が30カ所以上と多く、デルタ株や従来株に比べて免疫から逃れる性質が高いことがわかってきました。一方、病原性については、鼻や喉に炎症が起きやすい反面、ウイルスが肺で増殖して重症化するリスクはほかの株より低いことを、私が参加する研究コンソーシアム「G2P-Japan」を含め、いくつかの研究グループが報告しています。

しかし、仮にオミクロン株がデルタ株と比べて弱毒化していたとしても、発症や重症化のリスクがなくなるわけではありません。引き続き基本の感染対策を徹底するとともに、ワクチン接種を進める必要があるでしょう。感染対策は、変異株の出現を減らすためにも重要です。ウイルスの変異は感染した人の体内で増殖する際に生じるため、感染者が増えるほど変異も増え、強力な株が生じる可能性が高まってしまうからです。

ウイルスは、より効率的に増殖するために変異し続け、残念ながら変異を止めることは原理的にできません。その事実を、私たちは冷静に受け止める必要があります。

G2P-Japanではこれまでに、デルタ株の強い病毒性の原因変異を解明したほか、ラムダ株やミュー株、イプシロン株の変異と免疫逃避の関連などを世界で初めて明らかにしてきました。次々に出現する変異株の特徴をより詳細に理解するため、引き続き変異の早期捕捉とその変異がヒトの免疫や病原性・複製に与える影響を解明するための研究を進めていきます。

 

なかがわ・そう 1981年東京都生まれ。東京医科歯科大学大学院修了。博士( 理学)。国立遺伝学研究所特任研究員、ハーバード大学客員研究員を経て2013年東海大学医学部助教、18年から現職。専門はゲノム科学。