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コラム

2010/11/01
東海大学の先生方が、教育・研究活動などを通して学生と接する中で感じたことをつづったリレーコラム(Back Number掲載中)

「実学」としての観光学を

観光学部観光学科 田中伸彦 教授


「え! 観光学科ができたんですか? うらやましいですね。学生時代にそんな学科があったなら、私もそこで学びたかった」

今年4月に東海大学に赴任してから、仕事でかかわりのある知人から、このような感想をたくさんいただいています。実のところ、日本の4年制大学に初めて観光学科ができたのは1967年4月1日のことで(立教大学)、かれこれ43年の歴史があります。この日に生まれた人ならば、ちょうど私と同級生です。そう考えると、観光学科はとてもフレッシュとは言えません。アラフォー後半の「いいおじさん」といったところです。おそらく知人が受験生だったときも、入学定員は少ないながら観光学科はすでに存在していたはずです。

しかし、多くの人から観光学科はフレッシュだと思われています。なぜでしょうか?理由はいくつかありますが、日本の大半の観光学科がこの10年のうちに設立されたことからも分かるとおり、観光学が発展途上の学問だという点が挙げられます。例えば、国立国会図書館のデータベースを検索すると、わが国ではこれまでに約51万件もの博士論文が提出されていますが、「観光」がタイトルに入っているものはわずか125件にすぎません(2010年10月6日現在)。この論文数は、産業規模の割に少なすぎます。紛れもなく私は、その125件のうちの一つを書いた張本人ですが、かく言う私も、学生時代に観光学の全体像を満遍なく学ぶ機会には恵まれませんでした。観光学科を卒業していないからです。例えば、私は今でも運輸・宿泊などのサービス産業分野に、あまりプロとしての自信はありません。

航空機にはこれまでに何百回も乗っていますし、テントから五つ星ホテルまで毎年数十泊外泊をしますが、経験を豊かにしたところで学問が身につくものではありません。大学における専門的な教育・研究が必要なのです。その点で、本学観光学科の1期生は、とても恵まれた環境で、満遍なく観光学を学ぶことができてうらやましい限りです。

観光学は間違いなく「実学」です。実学なので、観光活動・産業に役立つことを念頭に体系的な学問をつくらなければいけません。そのため我々教員も、古巣における社会科学や自然科学のディシプリン(ある学問分野を習得するための原理・原則)に閉じこもっていてはいけないことを肝に銘じる必要があります。それでは元々の学部・学科の亜流に終わってしまいます。かといって、実務家が会社の経験談を学生に話すだけでは学問になりません。そのような話は、今聞かなくとも社会人になれば嫌というほど上司に聞かされるでしょう。ディシプリンと実務とを融合させて、理論化、普遍化、抽象化、一般化させた「実学」としての観光学を築き上げることが重要です。

多様な学部・学科を抱え、幅広い学問の素地が整っている東海大学は、新たな実学=観光学の体系を構築する格好の舞台です。そう思い、私は東海大学に赴任してきました。「『実学』としての『東海観光学』を創り、それを修めた観光学科の1期生を送り出すこと」、それが私の当面の夢であり目標です。

 
たなか・のぶひこ 1966年神奈川県生まれ。東京大学農学部林学科卒業。博士(農学)。林野庁研究・保全課研究企画官、独立行政法人森林総合研究所上席研究員などを経て現職。専門はレジャー・レクリエーション学、自然環境(森林)計画学など。

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