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コラム

2010/04/01
東海大学の先生方が、教育・研究活動などを通して学生と接する中で感じたことをつづったリレーコラム(Back Number掲載中)

「思わぬこと」に飛び込もう!

文学部広報メディア学科 岡田章子准教授

未曾有の不況といわれる厳しい時代状況にあっても、春はまた巡ってきます。私はちょうど去年の今ごろ、紆余曲折を経て、文学部広報メディア学科の教員としてこの東海大学にやってきました。昨今の厳しい状況とは対照的に、私の大学卒業当時はバブル景気まっただ中。しかし、深く考えもせず決めた就職に早々に挫折。その後、出版社の雑誌編集手伝いを始め、それから編集者に、そして雑誌メディア文化の研究者になりました。もとより、「高学歴ワーキングプア」が取りざたされる今日、大学院を出てこれからどうしようかと思っていたところ、思いがけずこちらに迎えられることに。本当に人生航路の道行きは思わぬことの連続です。

さて、この東海大学という舞台での、私の経験もまた、「思わぬこと」の連続でした。実際の制作にしろ、研究にしろ、今までプリント・メディアのことばかり考えてきた私に、映像やラジオ放送といった他メディアへの出演依頼が舞い込んできたのです。具体的には、学生が授業で制作する公共広告CMにお母さん役で出演、また、同じく学科の学生が企画・制作し、毎週火曜日に湘南平塚コミュニティ放送でオンエアされる「こちらラジオ番組制作部」で、マンガ雑誌についてのコメンテーター役を務めました。編集者とは、本来表現者を「演出」する黒子の役割で、表に出ないのが通常ですが、映像やラジオでは学生たちのディレクションを受けて、「演じる」という、文字通り逆の立場を経験したわけです。

CMでは「創作物」であることを忘れて、つい本名を名乗ってしまったり、ラジオ番組では、後で編集すればいいだろうと一人で長々としゃべってしまったり(雑誌のインタビューは、後で構成が自由に変えられるように、分量よりも長く話してもらうほうがありがたいのですが、放送では、時系列を変えるわけにはいきません)。また後で自分の出演した番組を視聴すると、姿勢や話し方など、いかに演じる意識が足りないかを痛感させられました。要は、メディアについて教えるつもりが、思わぬ経験によって、メディアごとの、そして表現にかかわる役割ごとの違いを教えられた、というわけです。

現在の厳しい就職状況の折には、目標を持って学ぶことの重要性が強調されますが(もちろん、それを否定するつもりはありませんが)、必ずしも目標通りにいかないのもまた人生です。若い時代は、特に、目標への最短距離を近視眼的に考えるよりも、思わぬ出会いや経験に失敗を恐れず好奇心を持って飛び込み、そこから何かを学ぶことのほうが多いような気がします。卒業や入学という門出を人生のどの季節に迎えるにせよ、「冬来たりなば春遠からじ」の言葉通り、季節は必ず巡っていきます。そしてそれぞれの季節に意味があります。四季の美しいこのキャンパスを舞台に、それぞれの季節、それぞれの出会いを大切にして、まだまだ若いつもりの私も学生諸君と一緒に「思わぬこと」にどんどん飛び込んでいきたいと思います。

 
おかだ・あきこ 1967年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒。立教大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学的見地から雑誌メディア文化を研究。

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