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コラム

2013/03/01
文系・理系の枠にとらわれず、先生方の専門分野や活動から共通テーマについて考察。文理融合の精神が生きる東海大学の教育・研究を発信します
(Back Number掲載中)

「震災・防災を考える」⑱ 特別編

東海大学 髙野二郎 学長
復興への貢献で大学の使命果たす
教員と学生の強いつながりで人材を育てる



東日本大震災の発生から間もなく2年が経とうとしています。東海大学では、直後から学生の安否確認や、被災した学生やご家族を対象とした学費の減免措置、学内の建物の安全確認といった、学生が安心して学びを続けられる環境の整備に取り組んできました。一方で、そういった混乱期の中であっても、東海大学の多くの教職員や学生たちが、積極的に募金やボランティアといった支援活動をいち早く展開してくれました。

本欄でも紹介されてきましたが、一時的な支援にとどまらず、医学部付属病院の医療チームが被災地で医療支援を展開。工学部原子力工学科では、東京電力福島第一原子力発電所の事故発生直後から放射線測定を続け、その結果と説明をインターネット上で公開するなど、各学部学科で、専門分野を生かした震災復興支援活動が取り組まれてきました。総合大学として、幅広く多角的な対応ができたのではないかと考えています。

また、チャレンジセンター「3・11生活復興支援プロジェクト」をはじめ、延べ1000人をこえる学生諸君がボランティアとして被災地に駆けつけています。復興への道はまだ半ばであり、息の長い支援活動が必要であることは論をまちません。本学でも、学生のボランティア活動を一定の条件のもと、授業単位として認める制度を整えました。社会への貢献は大学の使命であり、今後も学生、教職員が一体となって支援を続けてほしいと期待しています。

東日本大震災への対応を機に、あらためて大学の社会貢献の重要性を感じています。公的機関として、食糧備蓄など災害時の避難先としての整備はもちろん、有事に際し適切に対応できる人材の育成にも努めなくてはなりません。たとえば、震災では現代文明や科学技術のあり方が問われました。津波による堤防の損壊や原発事故など、これまで培われてきた科学技術が自然の脅威の前にはあまりにも無力でした。最先端技術の研究機関である大学は、そして研究者は、現実と向き合い、真摯に対応していかなくてはなりません。成果を社会的価値につなげることが重要です。

また、災害時に避難所を運営するリーダーや地域の復興に携わることのできる人材を育てることも、やはり大切なことです。そのためには、大学の根本である教育をもう一度考える機会となりました。冒頭で述べた学生の安否確認では、日ごろから学生と教員の距離が近く、信頼し合う関係を築けていた学部ほど情報が早く伝わりました。現代社会は情報化が進み、学生と教員が直接顔を合わせなくても教育は可能です。しかし、インフラは整っていても、人間同士のダイレクトな関係なくしては質の高い教育は不可能です。東海大学は学生と教職員の強いつながりをつくりたい。そうして、社会で広く活躍できる人材を育成することが、大学の使命を果たすことにつながると考えています。

 

たかの・じろう 1940年山梨県生まれ。東海大学工学部応用理学科卒業。理学博士。理学部化学科教授。学校法人東海大学理事ほか要職を歴任。専門は有機化学、環境科学、大学教育など。

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