特集:教育の現場から
2012年9月1日号
教養学部人間環境学科の学生が提案
ATM利用促進に若者の視点を
産学連携で顧客開拓を目指す


教養学部人間環境学科社会環境課程の隈本純准教授のゼミに所属する学生が企業と連携し、ドラッグストア店内のATM利用促進キャンペーンを7月1日から31日まで実施した。ATMを運用する(株)イーネットから、消費者心理が専門の隈本准教授が受託した共同研究企画の第一弾。その道のりを追った。

「ATMの利用促進キャンペーンです」「美容家電が当たりますよ!」真夏の日差しの中、チラシを手にした学生がツルハドラッグ高田馬場店(東京都新宿区)の店頭で、来店客や通行人に呼びかける。学生たちが企画した「ツルハでおろそう! 銀行ATMキャンペーン」は、店内にあるATMの存在を認知してもらい、利用率向上につなげようというもの。利用明細書の「問い合わせ番号」を添付して応募すると、抽選で美容家電が当たる仕組みだ。

イーネットの担当者と打ち合わせを重ね、約3カ月かけて、企画や懸賞品の適法性検証、販促物デザインなど、すべてを学生の手で行った。「主体的に考え、行動することで、実社会で適用するコミュニケーション能力や課題解決能力が培われる。ビジネス社会の厳しい現場体験は、学生にめざましい成長をもたらしています」と隈本准教授はその意義を語る。期間中はゼミの3、4年生23人が交代で計10日間店頭に立ち、キャンペーンをアピールした。

地道な調査で実態把社長プレゼンに臨む
隈本准教授のゼミが、「ATMの利用実態把握」と「利用件数の向上」を目的としたイーネットとの共同研究を受託したのは2011年4月。コンビニエンスストアのATM利用は着実に伸びているが、ドラッグストアでの利用率はなかなか向上していなかった。イーネットからは多様なデータ提供の申し出があったが、あえて利用せず、自分たちの実感を伴ったデータを収集しようと現地調査を始めた。隈本准教授の指導のもと、学生たちは地図を作成し、高田馬場駅周辺地域のATM設置状況を確認。来店客の追跡調査や店頭アンケートも約200件実施した。「初めは緊張して声が出ず、10人に声をかけても応じてくれるのは2、3人。けれどコツがつかめるにつれ、回収率がアップしてきました」と比良貴海さん(4年)。
 

10月21日には東京・日本橋のイーネット本社で、石原邦浩社長や役員らに研究成果を中間報告。ターゲット層や五感に訴える販促アイデアなどを披露するも、厳しい意見が次々と挙がった。「爛疋薀奪哀好肇△肇灰鵐咼砲陵用目的の違いを認識できていない〞という指摘は、本当にこたえましたね」と吉田大貴さん(同)は振り返る。報告会での指摘を受け、建学祭期間中の湘南校舎で、小売業態別の利用目的調査を実施。しかし、ATM利用率向上のヒントは見つからず、模索する日々が続く。学生の中には犲分たちの手には負えないのではないか〞という雰囲気が漂い始めた。

利用率向上の壁、あきらめずに前進する
そんなとき、「課題から目をそらさず、お客さまを誘導してでも結果を出そう」という隈本准教授の言葉が学生たちを奮い立たせた。爐發Π貪戞⊇蘓瓦傍△蹐〞と店頭に立ち、来店客とじっくり話すフリーアンケートを4日間実施。「周りに商品があるので安全面が心配」「手数料が高い」「ATMの存在を知らなかった」など、これまで見えなかった顧客の声が浮かび上がった。

そして、12年4月に「最終報告会」が行われた。これまでのデータを分析し、「ついたての必要性」など、新しい方向性を提案し、手応えを感じた。イーネットからは12年度の共同研究継続の打診があった。また、イーネットの提案で「カフェ」「音」「SNS」など7つの分科会を結成し、同社マーケティング部と隈本ゼミとの月1回の合同会議実施が決定。各会には担当者がつき、「費用対効果を考えたときの妥当な販促経費」「目標数値の算出方法」など、ビジネス上で重要なノウハウを教わっている。

「このプロジェクトの難しさは、銀行・店・イーネットとさまざまな制約があること。それらを全部クリアして、企画へのゴーサインが出たときは最高にうれしかった。また、広い視野に立って考えることや仕事に対する姿勢を学べたことは大きな財産です」と吉田さん。澁谷咲さん(同)は「多様な立場の人と情報を共有化しながら、いかに効率的に作業を進めていくか。この経験は就職したときにも必ず生かせると思います」と語る。今後は「香り」「ついたて」など各分科会の企画が続々と実現予定だ。

[社会の視点]どんな結果でも次に生かす
螢ぁ璽優奪函Ε沺璽吋謄ング部 香島慶彦 担当部長

この共同研究は、学生の自由な発想をATMの利用促進につなげたいと始まりました。1年目にお客さまや店舗環境を理解し、2年目は企画を現実化する。昨年度の報告会では、五感に訴える販促など斬新なアイデア提案があり、刺激を受けました。今年度は社員が仕事のノウハウをアドバイスしています。現実の世界には多様な制約がありますが、状況を理解し、ベストを尽くす。大切なのはPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(改善)です。どんな結果になったとしても、必ず分析して次へ生かす。ぜひ、多くのことを学んでください。

 
(写真上から)
▽ツルハドラッグ高田馬場店でキャンペーンをアピール
▽デザインにこだわり制作した販促ツール。仙台の2店舗でも実施
▽緊張した初めての社長プレゼン
 
[もう一つの話題]政治経済学部
老舗製菓店と共同で新商品「シャカシャカせんべい」を開発

政治経済学部経営学科の学生有志が、川崎の老舗製菓店・堂本製菓蠅箸了些慙携プロジェクトを実施。「一般のお客さま向けの小売りを増やしたい」という同社の意向を受け、新商品「シャカシャカせんべい」の開発や店頭ロゴ統一などの各種提案を行った。

この産学連携プロジェクトは、「マーケティング力が不足している中小企業のために、学生ならではのアイデアを生かした新商品を提案してほしい」という川崎市産業振興財団の提案を受けて昨年5月からスタートしたもの。経営学科の三宅秀道講師の指導のもと、同学科の学生有志18人が自主ゼミ活動として取り組んでいる。ベンチャー論が専門の三宅講師は、「大企業のようにマーケティングや広報システムが確立されていない中小企業の現場を知ることは、学生にとって勉強になる。現場を肌で感じることで、教員や両親からは得られない社会経験も積んでほしいと思いました」と話す。

ディスプレイや店頭ロゴも提案
産学連携先の堂本製菓は、川崎市内に4店舗を展開する1909年創業の老舗製菓店。看板商品の「大師巻」をはじめとする各種煎餅を製造・販売している。学生たちは100種類以上ある同社商品を食べ比べ、味の特徴やラインアップを消費者の目線でチェックした後、約半年をかけて店頭アンケートの実施や工場見学、関係者らとの話し合いを重ねていった。

その結果、「新商品を作るだけでなく、販売方法やディスプレイ、店頭ロゴといったマーケティング全般を提案する必要があるのではないか」と意見が一致。これまで小売店別にばらつきのあった店頭ロゴを統一するなどの改善案を提出した。これと並行して新商品開発にも着手。試行錯誤の末、煎餅を入れた紙袋に好みの風味を入れ、シャカシャカと振って味つけをする「シャカシャカせんべい」を開発。5月末には商品化され、サッカーJリーグ・川崎フロンターレのホーム戦が開かれる等々力陸上競技場(神奈川県川崎市)で限定販売されている。
 
「学生の皆さんは一生懸命に課題解決に取り組んでくれた。次第に心強い存在になりました」と、同社の堂本典子社長は感謝の気持ちを語る。学生たちも、「就職活動が厳しいといわれている中で、この経験は自分の糧になる」(城川真彦さん・3年)、「先輩たちと一緒に一つの目標に向かうことができて、よい経験になった」(岸本明久さん・1年)と手応えを感じている。

 
(写真上から)
▽「シャカシャカせんべい」(65g250円)は、青のりカレー、ガーリックステーキ、黒糖の3種類の風味。5月26日に続き、7月28日にも等々力陸上競技場で販売された
▽フレーバーの味から使用する量まで、「煎餅を見るのも嫌になるほど」の試食を重ね、納得のいく商品に仕上げていった