Column:Point Of View
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2018年5月1日号
「監察医の重要な役割」
医学部医学科基盤診療学系法医学 垣内康宏 講師

「法医学」は昔から小説やテレビドラマでよく取り上げられ、一般の方々にも比較的なじみのある分野かと思います。ごく最近も法医学をテーマにしたドラマが人気を博したそうで、現在もなお根強い人気があるジャンルだと実感させられます。かくいう私も、親が国語教師でミステリー好きだったこともあり、ご多分に漏れず小説などから法医学という世界があることを知った次第です。

ところが実際に法医学の世界に入ってみると、小説やドラマで描かれるイメージと現実のギャップに驚かされることがたびたびありました。その代表が、いわゆる「監察医」の描かれ方でしょうか。小説やドラマの世界では、監察医はさまざまな犯罪で被害に遭われたご遺体を取り扱い、ときには事件そのものに巻き込まれたり、名推理をして事件を解決したりします。ところが日本において監察医は、基本的に事件性がないとされたご遺体を中心に取り扱い、事件性があるご遺体は各大学医学部の法医学教室で解剖などが行われます。私も大阪府の非常勤監察医をしていますが、事件性の疑いが生じた場合には、法医学教室へ引き継ぐことになっています。
 
とはいえ、監察医の果たす役割が我が国では小さいのかというと、決してそうではありません。たとえばかつて、某社製の湯沸器に欠陥があり、漏出した一酸化炭素によって中毒死が相次いでいたものの、原因不明で「病死」扱いとなっていた事件がありました。このように一見明らかでない事件の見逃しを未然に防ぐというとても重要な役割を、監察医は担っています。

ところが、この監察医という制度は全国どこにでもあるわけではなく、東京・大阪といった、ごく限られた大都市にしか存在していません。しかも、その運営や財源は各地方自治体が担っているため、神奈川県横浜市のように諸般の事情から廃止(2015年3月末)されてしまった地域もあります。大阪府も16年に廃止が検討されたのですが、関係団体の反対等もあり、なんとか存続しています。犯罪の見逃し防止や地域社会の公衆衛生向上のため、監察医という制度はむしろ、国の費用負担で全国的に実施されるべきではないかと、個人的には思っています。

(筆者は毎号交代します)

 
かきうち・やすひろ 1975年和歌山県生まれ。京都大学法学部、横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了。2017年7月より現職。専門は法医学および公衆衛生学。