Column:Point Of View
2017年4月1日号
好きなマンガは?
理学部化学科 冨田恒之 准教授

4年生の研究室配属が決まり、学生同士が自己紹介をするとき、「好きなマンガは?」という質問を毎年している。自分の好きなものなのでアツく語ってくれることも多く、形式的な自己紹介よりもお互いを知るのには適しているかもしれない。私自身がそのマンガを学生たちから借りて読むこともあり、彼らがどんな世界観が好きでどのような考え方を好むのかを垣間見ることができる。マンガでも小説でも映画でも、誰かが一押しする作品にはその人の個性が含まれ、どれも魅力的だ。

結婚して子どもが生まれる少し前、学生から借りたマンガで非常に強く印象に残った作品がある。30歳の独身男性がひょんなことから6歳の子どもを預かり、育てていくストーリーだ。一人で仕事に集中できた生活から、そこへ急に子どもが入ることで環境大きく変化する様が描かれている。自分にも間もなく子どもが生まれ、これからの生活がどうなるのか、もちろん楽しみのほうが大きいのだが、多少の不安もあったそのときの心情と見事に重なった。

父親になるとはどういうことなのか、仕事への影響はあるのか、子どもがいる同僚たちはどうしているのか、自分の父親は子どもをもったときどう変わったのか、分からないことだらけだった。分からないことがたくさんあれば、それらに漠然と不安を感じるのも当然かもしれない。

自分自身も父と母の子どもとして生まれ、そして育ち、周りの人たちも全員が誰かの子どもとして生まれて育ってきた。そんな当たり前のことを30代になるまできちんと認識していなかったと気づき、自分たちよりも上の世代から子どもたちの未来の世代までがつながっていることを意識するようになった。

そのマンガを貸してくれた学生も間もなく30歳になる。社会のさまざまなことを知り、卒業時よりもさらに立派になっていることだろう。我が子の成長は当然うれしいもので、同時に父親として変わっていく自分自身も楽しんでいる。そんな自分をまた父と母に見てもらうことが、育ててくれたことへの感謝になると考えている。先生と教え子、親と子、どちらも成長と感謝でつながってきたものであり、時代をこえてつなげていくものだと思っている。

(筆者は毎号交代します)

 
とみた・こうじ 1977年東京都生まれ。専門は無機合成など。