特集:研究室おじゃまします!
2013年7月1日号
シックハウス症候群はなぜ起きる?
医・理・工の学際的チームで
「健康に暮らせる家」を考案

医学部医学科基礎医学系 坂部 貢 教授

家の中で目がチカチカする、吐き気や頭痛に悩まされる――シックハウス症候群の研究に、長年にわたり取り組んでいる医学部の坂部貢教授。2011年度からは理学部や工学部などの教員と連携し、シックハウス問題を根本的に解決するための「東海大学発・健康に暮らせる家」の提案を目指した研究を続けている。その概要と展望を聞いた。

「医学部だけでなく、他学部の先生と連携して1つのテーマを考察する。多様な学部学科が集まる“総合大学”だからこそできる研究プロジェクトだと捉えています」と語る坂部教授。医学部、理学部、工学部、そして創造科学技術研究機構の教員による学際的チームで取り組んでいる研究「生活環境がもたらす病気の診断法と対処法の開発―21世紀型健康維持増進居住環境の確立を目指して―」は、2011年度の連合後援会研究助成=キーワード参照=の採択を受けて始まった。
 

医学部がシックハウス症候群の診断法と、発症と関連する遺伝子の解析、裏づけとなる基礎実験を創造科学技術研究機構、理学部化学科が室内空気の測定・分析、工学部建築学科がそれらの成果を建築工学的に応用した住宅をデザイン。それぞれの専門分野を生かした「東海大学発・健康に暮らせる家」を提案する研究は、今年度に採択の最終年度を迎える。

規制以外の化学物質が発症の引き金に!?
1990年代後半に、日本でも社会問題となったシックハウス症候群。建材や家具などから出る揮発性の化学物質が原因で、目がチカチカしたり、吐き気や頭痛、咳、じんましんに悩まされる、といった体の不調を訴える病気だ。一般的に、家にいることの多い女性や体の小さな子どもが発症しやすい。その治療法は、「有害となる化学物質の発生源をなくし、室内環境を改善することが第一」と坂部教授。
 
2003年には、それまで建材や接着剤に使われていたホルムアルデヒドやトルエンなど13種類の化学物質の指針値を国が制定。しかし、今度はそれ以外の化学物質が引き金になるなど、シックハウス問題はいまだに解決していない。

幅広い環境因子が健康悪化の原因に
そもそも、シックハウス症候群は原因も症状も多種多様。診断が難しい病気といわれている。「ほとんどの人は大丈夫でも、ちょっと弱い人(敏感な人)にとっては非常に苦痛に感じる。アルコールと一緒です」。症状には個人差もあるため、「気のせい」だと周囲に言われてしまうことも。引っ越し疲れやストレス、新しい家を買ったことによる経済的不安など、住宅以外の環境因子が健康に悪影響を与えている場合もある。
 
厚生労働省や環境省などの研究チームの研究代表者も務める坂部教授。屋外における農薬や除草剤による健康被害などに関する研究にも、積極的に取り組んでいる。「健康が維持でき、知的生産性が上がり、病気にならない―最終的には、そんな長寿社会にマッチした住宅を提案したいですね」



focus
乳がん研究がきっかけで
環境中の化学物質に興味を抱く


「私たちが1日に体内に取り入れる物質の約80%が空気で、食べ物や水は約15%ぐらいしかありません。朝起きてから夜寝るまで、呼吸は一度も止まらないでしょう(笑)。それなのに、自分たちが吸っている空気について無頓着な人が多いですね」
 
坂部教授が環境中の化学物質に興味を持ったのは、今から26年前。アメリカのタフツ大学に留学していたときだ。当時は乳がんの研究に取り組んでいたが、培養液を保存していたプラスチック試験官から化学物質が溶け出し、乳がん細胞が増殖する場面に遭遇。化学物質が人体に与える影響に興味を抱き、以来、環境因子と健康影響に関する研究を続けている。
 
「常に心がけているのは、“人類のために役立つ研究をする”ということ。科学は人類の幸せのためになければならないと、胆に銘じています。私の専門である環境因子と健康影響の研究は、多くの人にとって身近なテーマ。研究成果をダイレクトに患者さんに反映させ、その症状緩和に役立てることができるので、やりがいがあります」

 
さかべ・こう 1956年京都府生まれ。東海大学医学部卒業後、87年から2年間アメリカのタフツ大学医学部のリサーチフェロー。東海大学医学部助教授、北里大学北里研究所病院臨床環境医学センター長などを経て、2009年より現職。医学部副学部長。専門は環境生命科学、環境システム医学、解剖学。
Key Word 連合後援会研究助成
在学生の保護者組織である連合後援会の研究助成は、保護者による大学の教育・研究を支援する活動の一環として2004年に始まった。「環境」をキーワードにした研究が対象で、助成期間は3年間。