特集:教育の現場から
2012年11月1日号
工学部原子力工学科の取り組み
放射線の正しい知識を広めたい
専門分野を生かし建学祭で発表


原子力工学を学んでいるからこそできる活動をしよう―。工学部原子力工学科の学生有志が、11月1日から3日まで開催される建学祭で、日々の学びを生かしたイベントを計画している。9月末には有志が福島で除染技術を学ぶ実習に参加。幅広い活動を展開する学生たちを追った。

昨年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故以後、原子力工学科では湘南校舎内の放射線測定を継続的に実施施し、測定データと分析結果を学科のウェブサイトに公開。市民向け講演会で講師を務めるなど、原子力に関する専門知識を生かし、放射線についての基礎知識や最新の動向を広く一般に発信してきた。

また、学生に向けては授業やゼミで発電所の現状などに関する情報を提供。学生や若手研究者による意見交換会などへの参加も積極的に支援している。学科主任の伊藤敦教授は、「本学科ではこれまで、原子力工学や放射線関連の幅広い知識を習得し、エネルギー問題に客観的な視野を持って取り組める人材の育成を目指して、教育・研究活動を展開してきました。その姿勢は、これからも変わりません」と語る。

正しい情報を伝えたい その思いで活動を開始

そうした中、学生による活動の一つとして始まったのが、核融合炉モデルと霧箱の製作だ。建学祭の学科展示として、最新技術や放射線の正しい知識を身につけてもらおうと企画した。「あの事故以降、専門分野を学ぶ学生だからこそ、できることがあるはずだと思ってきた。それを実現するために参加した」と小木和弥さん(3年)は語る。同学科の近藤正聡講師が呼びかけ、9月からスタート。2年生と3年生計5人が参加し、海外の文献や論文を調べて設計図から作成してきた。
 
高さ60センチのモデルづくりに取り組んでいる核融合炉は、20年後の実証を目標に研究が進められている技術で、海水からエネルギー資源を調達。従来の発電技術よりも高い安全性を持ち、世界各国で研究が進んでいる。一方の霧箱は、蒸気を充満させた箱を使って放射線が空気中を飛ぶ様子を目で見えるようにする装置。箱の中に温度変化をつけ、空間内を湿度100%をこえる「過飽和状態」に維持しなければならないため、大きなサイズを作るのは難しい。

それでも田口貴之さん(同)は、「箱が大きくなればより多くの人が一度に観察できるので、1メートル四方の霧箱作りに挑戦しています。情報をわかりやすく伝えることで、原子力工学との向き合い方を考えるきっかけにもしてほしい」と話す。霧箱の製作では、コンピューターソフトを使ってシミュレーションし、より確実に放射線を見られるよう工夫を重ねている。建学祭期間中は、パネルを使って来場者に説明もする予定だ。

除染の実習に参加し福島県の現状を学ぶ

被災地に足を運び、自分の目で見て感じることで学びにつなげようという学生もいる。同学科の学生4人は9月23日から28日まで、福島第一原子力発電所事故の影響で全村避難が続いている福島県飯舘村で行われた除染実習に参加した。北海道大学が文部科学省の助成事業として、福島大学や東海大などと協力して行っている環境放射能関連の人材育成事業の一環。除染技術の習得と原発の負の要素ついて学ぶことが目的で、北大と東海大のほか金沢大学と茨城大学の学生計15人が参加した。

実施にあたっては、専門家による講習を受講。事前調査で安全性が認められた村営公園を対象に、除染の方法やスケジュールを学生が立案し、24日から作業を行った。秋山優也さん(3年)は、「原子力工学を学ぶ者として被災地の現状と向き合う必要があると考えて参加した」と語る。防護服を着用し、3グループに分かれて作業に取り組んだ学生たち。表土を取り除く深さや除去面積を変えた際の線量の変化などについて詳細にデータを取りながら除染を進め、作業後には作業に伴う被ばく線量などの情報も収集。27日には農産物の放射能検査現場を視察し、避難中の住民とも懇談した。

鈴木成実さん(同)は、「福島で暮らすことを決めた方々を支援し、原子力について国民的に議論するためにも、情報を得られる機会を増やすべきだと感じた」と話す。参加後は、友人から現地の様子について聞かれることも多い。「直接体験したことだからこそ、責任を持って語れる。さまざまな機会を利用して今回の経験を多くの人に伝えていきたい」と話していた。


[副学長に聞く]平和利用の担い手として
山田清志 副学長(教育担当)

原子力工学は現在、医療や機械加工など幅広い分野で利用されており、人類社会にとって欠かせない技術となっています。発電への応用はその一つにすぎません。学園の創立者・松前重義博士は1955年、議員立法による原子力基本法の制定に尽力しました。これは戦争に敗れた日本が、海外に資源を求めず復興を果たす道として、原子力工学を平和的に利用しなければならないという理念に基づいたものです。56年、工学部応用理学科原子力工学専攻を設置し、日本で初めて原子力教育に着手したのも、それを実現したいという思いによるものでした。

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、日本は大きな打撃を受けました。この事故から立ち直るには、原子力にかかわる人材の育成と継続的な研究が、これまで以上に求められています。今後も松前博士の理念を堅持しつつ、アジア諸国の留学生に向けた原子力教育や、学園の生徒や学生を対象にしたエネルギー学習プログラムの構築などに取り組んでいきたいと考えています。

 
(写真上)建学祭に向けて急ピッチで霧箱作りに取り組む
(写真中)LEDライトや発泡スチロールを使い、核融合炉モデルを制作
(写真下)放射線防護服や手袋を身につけ、作業を行った。「服の中の温度が上がるなど長時間作業をすることはつらく、その意味でも作業の難しさを実感した」と学生たち
Key Word 東海大学の原子力工学教育
東海大学は、1956年に原子力工学を専門に学ぶ工学部応用理学科原子力工学専攻(現在の原子力工学科)を日本で初めて開設。約4000人の卒業生は、放射線技術の研究開発や発電所など幅広い分野で活躍している。2008年から12年には、国際教育センター・国際戦略本部と協力してアジア各国の留学生対象の大学院教育プログラムも展開。9月からはベトナム電力公社社員向けの教育プログラムも開始した。