Column:知の架け橋
2019年3月1日号
「QOL」を考える
医学部医学科基盤診療学系医療倫理学 竹下 啓 教授

good deathを迎えるために
「望ましい最期」を共有する


私の専門としている臨床倫理学は、「臨床医学における倫理上の問題を明らかにし、分析、解決するための体系的なアプローチを提供する実践的な学問」(『臨床倫理学』第5版・新興医学出版社)と定義されています。価値観が多様化し、医療行為の成果についても多義的に解釈される現代においては、何を大切にして何を医療の目標とするかについて、患者本人や家族、医療者の間だけでなく、医療者同士でさえ意見が分かれる場合が少なくありません。そのため、医療現場では医療者が患者に一方的に説明して同意を得るだけにとどまらず、お互いによく話し合い、患者・家族らを含めた医療・ケアチームとしての意思決定が望まれるようになっています。
 
いわゆる終末期に至る、回復が望めない状態でのQOL(Quality of Life)を、最近は「quality of death anddying」や「good death」といいます。good deathにとって何が重要かについても、医療者や患者・家族によって異なることが国内外の研究で示されています。

アメリカの患者や遺族、医師、看護師ら1462人に「人生の終わりに大切にしたいこと」を質問したSteinhauserらによる調査(2000年報告)によると、「痛みがない」は患者も医師も90%以上が「重要」と答えています。一方、「意識が明瞭である」「家族の負担にならない」「他人の役に立つ」については、患者の85%がいずれも「重要」と回答したのに対し、そう答えた医師は、それぞれ65%、58%、44%でした。 

国内では、宮下光令氏(現・東北大学医学部教授)らが日本人の患者5000人と遺族794人を対象に実施した調査結果(07年報告)が有名で アメリカの患者や遺族、医師、看護師ら1462人に「人生の終わりに大切にしたいこと」を質問したSteinhauserらによる調査(2000年報告)によると、「痛みがない」は患者も医師も90%以上が「重要」と答えています。一方、「意識が明瞭である」「家族の負担にならない」「他人の役に立つ」については、患者の85%がいずれも「重要」と回答したのに対し、そう答えた医師は、それぞれ65%、58%、44%でした。
 
国内では、宮下光令氏(現・東北大学医学部教授)らが日本人の患者5000人と遺族794人を対象に実施した調査結果(07年報告)が有名です。これは、先行研究から設定されたgood deathのために重要と考える要素について「必要ない」から「絶対に必要」の7段階で評価してもらうもので、患者2548人と遺族513人が回答しました。その結果、患者が共通して重要とする要素と、人によって考えが分かれる要素に分類されました=下表参照。
 
このように、人生の最終段階で大切にしたいことには個人差が少なくないことを、医療者は知っておかなければいけません。また、たとえば「人として大事にされる」のように多くの人が望む要素であっても、その実現のための医療やケアは一人ひとり異なることにも留意すべきです。 

個々の希望に沿うためには、家族や医療者がその人の価値観や意向を理解していることが望まれます。しかし、終末期に自分で意思を伝えられない状況になる場合もあるため、あらかじめ家族や医療者らと話し合っておくことが大切です。このプロセスを「アドバンス・ケア・プランニング」といい、18年11月には厚生労働省がその愛称を「人生会議」と決定しました。ちょっと大げさに思う方も、医師と話し合うのはハードルが高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは家族や親しい人たちと話してみてはいかがでしょうか。いつかは必ず訪れる人生の最終段階に何を大切にしてgood deathを迎えるかを、考え、共有するために。

 

たけした・けい 1968年埼玉県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。博士(医学)。同大医学部内科学教室助手、北里大学北里研究所病院総合内科部長・臨床准教授、青山学院大学教育人間科学部教授などを経て2018年度から現職。